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9匹のトラとベンティサイズ

予報では雨かと思われたが昨日の土砂降りのおかげで気が済んだのか、空は明るい表情で草木を照らしていた。


濡れたコンバースと傘を玄関でお留守番させ、僕は散歩へと出かける。乾きつつある土の匂いがどこからか鼻を掠めるとなぜか嬉しくなる。


歩いてほどなくするとママチャリに乗ったクルクルカールのおばちゃんが踏切に足止めをくらっている。
僕の位置からは背中しか見えないのだが、クルクルおばちゃんは虎が描かれたイカつい派手派手なシャツを纏っており、それも1匹どころの騒ぎではない。
背中だけで少なくとも4匹の虎が様々な形相と動きでこちらに飛び出してきそうな気迫がある。
あのとんちの一休さんも流石に慌てふためくだろう。
一体どこで買ったのか気になる。
遠くからでも特定できるほどの存在感、圧倒的。
しばらくして踏切が上がる。
僕は少し早足でクルクルおばちゃんを抜いてさりげなく後ろを振り向く。


なんと前には5匹いた。
つまり9匹の虎を飼い慣らしている。もうクルクルおばちゃんが10匹目のママ虎のように思えてくる。
僕は虎たちと目が合わないよう、すぐさま前を向く。
うん、この街は安心だ。僕はもう振り返らなかった。




誕生日に友達からもらったスターバックスコーヒーのドリンクチケットを使った。ありがとう友よ。
今まで会話のボケでしか聞いたことの無かったベンティサイズを産まれてはじめて頼んだ。700円のチケットをもらったのならばベンティーサイズを頼むのが筋というものだろう。(そうか??)
緊張と恥ずかしさからつい、注文が小声になってしまった。今思えばそれが恥ずかしい。堂々としていろ、この街には虎の親分だって居るんだ。
しかし、流石スターバックスコーヒーのスタッフさん、
きちんと小声オーダーを聞き取り、
『ヴェンティで!』と復唱した。

数分後、とんでもないサイズの甘そうな液体が手渡された。そりゃそうだ、吾輩がベンティを頼んだのだ。
アメリカの人達やベテランのスターバックサーはこれを平気に飲んでいるのだからすごい。見てるだけで甘い。
果たして僕はこれを飲み切れるのだろうか。

お店を出て一丁前にデカいカップを携えて街を闊歩する。
ベンティサイズは水戸黄門の印籠のように皆が道を空けてくれる。訳では無いが少し視線を感じた気がした。

果たして僕は飲み切れるのだろうか。

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