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エンタープライズマーケティングなくしてエンプラシフトの“大”成功はなし

SmartHRでマーケティングを担当している今西です。気づけば前回noteを書いてからほぼ2年が経っていました。この2年で弊社の組織、そして私自身の役割も大きく変わり、現在は、イベントマーケティング・エリア戦略に根付いたマーケティング・大手企業さまを対象としたエンタープライズマーケティングの3つをまとめた「オフラインマーケティング部」を管掌しています。
※ SmartHRの組織変革の詳細は、ぜひ以下の2つの記事をご覧ください。

この記事では、エンタープライズマーケティングが、事業のエンタープライズ開拓にどのような影響を及ぼすのかについて、私の考えをご紹介します。
読み手としては以下の方々を想定しました。

  • エンタープライズ部門の成長率を高めたいと考えている事業責任者

  • マーケティングと連携してより成果を高めたいと考えている、エンタープライズセールス担当

  • エンタープライズマーケティングの必要性は理解しながらも、まだ何も着手していないマーケティング責任者


2024年はエンプラシフトが加速する

2023年11月に開催された「ALL STAR SAAS CONFERENCE 2023」の「2024年のSaaS業界と5大トレンド」の中で、以下の話がありました。

(前略)やはり効率の良い成長を志向するならば、エンタープライズへのシフトは大事になってきます。
日本企業のソフトウェア投資は大企業が多く、実に全体の8割を占めています。しかし、大企業は全体の0.3%しかいません。やはり効率の良さを考えても、大規模商談を作るためにエンタープライズ市場の攻略は欠かせません。

SaaSマニアの2人が予想する「2024年のSaaS業界と5大トレンド」。2023年の総括と共に振り返る

そして2024年の5大テーマの1つにも「ミッド・エンプラシフト」が挙げられていました。

2024年のSaaS業界「5大トレンド」を予想

このように、2024年は「エンタープライズ」が盛り上がる1年になると言われていて、SmartHRも2024年から「エンタープライズ事業本部」を組成しました。しかし2024年に入って早1ヶ月半。エンプラシフトと共に加速するだろうと思っていた「エンタープライズマーケティング」の話がほとんど耳にも目にも入ってこないことに、私は驚きと寂しさを感じています。「ならば私がエンタープライズマーケティングのことをもっと発信しよう」と決め、このたび2年ぶりにnoteを書いています。

エンタープライズがThe Modelでは成果が出にくい理由

エンタープライズマーケティングの話をする前に、まずは「SMBとエンタープライズは何が違うか」について、みなさんご存知「THE MODEL」の営業プロセスを用いて簡単に確認します。

The Model(ザ・モデル)とは?用語と営業プロセスをSalesforceが解説

THE MODELでは、マーケティングの役割は見込み顧客を獲得すること(いわゆるリードジェネレーション)とされ、KPIとしては、見込み顧客の獲得数(MQL)や商談獲得数(SQL)などが設定されます。THE MODELは効率的に成果を出すために洗練された営業プロセスモデルであるゆえ、SMBにおいては(さまざまな議論があることは承知の上で)あまり疑いの余地はありません。一方でエンタープライズにおいては、THE MODELのマーケティングアプローチではSMBほどの成果は出にくいです。というのも、THE MODELは「不特定多数にアプローチして最大の成果をとりにいく」わけですが、そもそもエンタープライズは企業母数が小さく、課題感や求める情報がSMBとは異なることが多いため、同じ施策でも獲得できるリードはわずかになりがちです。

また、THE MODELにおいては分業制がとられているため、マーケティングの責任範囲は「見込み顧客の獲得」であり、それ以降のフェーズには直接的に関与しない企業も多いのではないでしょうか。

エンタープライズマーケティングの役割

次に、エンタープライズ開拓におけるマーケティングに期待される役割について、3つのポイントを紹介します。

(1)キーマンと接点を持つ、戦略的なアプローチ

数少ないエンタープライズ企業のキーマン(サービスの導入検討を進めるうえでの中心人物)に自社サービスを知ってもらい接点を作ることは最も期待される役割の1つであり、エンタープライズマーケティングはこのキーマン探しを戦略的に行ないます。具体的には、セールスへのヒアリングや過去商談記録の参照などから顧客を知り、キーマンにとって有益な情報やコンテンツ像をクリアにしたうえで、マーケティング施策に落とし込んで届けるイメージです。つまり、THE MODELの不特定多数へのアプローチではなく、特定企業のキーマンという1名へのアプローチということで、SMBマーケティングとは全く逆の思考に転換する必要があります。

この考えはまさに「アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)」でもよく紹介される取り組みです。ABMについては比較的多くの記事が公開されていますが、中でも私が最もうなったSAIRUさんの記事と図を参照させてください。

ABMとは?基本的な進め方【アカウントプランのテンプレート付き】

(2)顧客との関係値を築く、コンテンツのデリバリー

受注まで数年スパンにもなりうるため、エンタープライズマーケティングは、THE MODELでいう「見込み顧客の獲得」というマーケティングの役割からの越境も重要です。その具体的な取り組みが「コンテンツのデリバリー」です。

マーケティング部門は顧客向けに多くのコンテンツを生み出していますが、それは営業活動にも活用できることが往々にあります。特にエンタープライズの場合、商談中にさまざまな部門・役職の関係者が次々と登場し、幅広い質問・要望への対応が求められるため、コンテンツのデリバリーが威力を発揮します。SmartHRでは、マーケティングコンテンツをまとめたポータルを作り、課題感やカテゴリをタグづけして、セールス自ら欲しい情報にアクセスできるようにしています。

オウンドメディア「SmartHR Mag.」の記事をセールス自身が検索することができるポータル

この仕組みが機能すると、自ずとセールスから「あのコンテンツも良かったけど、〜〜の視点から解説するものがあったら助かる」という声も集まり、コンテンツのデリバリーの好循環が生まれます。

(3)商談の正念場を乗り越える、ラストワンマイルのパス

最後に、商談の正念場を乗り越えるために必要なマーケティング支援をおこなう「ラストワンマイルのパス」です。エンタープライズの商談はいくつもの山場を越えていくこととなりますが、商談の型化がしにくいため、セールス自身の過去の成功をそのまま再現し続けることは難しいです。

ここにエンタープライズマーケティングが加わると、目の前の正念場を乗り越えるための的確なパスをセールスに出して、受注率を高めることができます。つまり、対象企業の商談前進にフィットしたマーケティング施策を個別に用意しよう、という考えです。たとえば、「担当者の合意は得たが、決裁者の承認が得られない。かつ、決裁者とは面識がなく、考えや懸念点の詳細が掴み切れずに、芯を得たプレゼンテーションができない」という状態があったとします。この場合、決裁者の関心ごとや話してみたい人、収集したい情報などを担当者経由でヒアリングし、それが実現できるオフラインイベントを企画して招待することで、セールス担当との接点を生み出すこと図ります。

なお、このラストワンマイルのパスに取り組むにあたっては、セールスと共に「何がなんでも成果に結びつけるんだ」という強い覚悟を決めることが重要です(どんな施策でもそうあるべきですが)。というのも、目的が「特定の商談の正念場を乗り越えて、ラストワンマイルを駆け抜ける」であるゆえ、これが達成できないとその施策は失敗です。この覚悟をもってマーケティングはコンテンツにこだわりぬくし、セールスも何としても顧客に届けます。エンタープライズは受注インパクトが大きいので、1つの施策に多くの時間と労力をかけてでも、ラストワンマイルのパスに挑む時は徹底的に熱を込めましょう。

3つの役割ざっくりまとめるとこんな感じです

エンタープライズマーケティングを成功させるには、専門の組織が必要

「よし、この3つを早速取り入れてみよう」と始めても、実はそう簡単にうまく成果は生み出せません。これは、SmartHRも過去に痛感したところですが、エンタープライズマーケティングを成功させるには、専門のチームを作り、KPIやメンバーの目標は新たに整えるべきです。たとえば「戦略的アプローチ」や「ラストワンマイルのパス」を、リードや商談の獲得数をKPIとした従来のリードジェネレーションチームが担っても失敗しがちです。そのチームは「効率よく多くのリードや商談を獲得する」ために最善な行動をとりますし、その結果が評価されるKPIを設定しているため、狭く深く刺しこむ施策にはどうしても熱を注ぎきれません。

SmartHRでは、エンタープライズマーケティング領域を専門で担うチーム(セールスマーケティングユニット)をつくり、セールスやISなどの各部門との密な連携はこのチームに集約しています。また、他のマーケティング部門のチームの中にも、エンタープライズ領域担当を配置できるとよいですSmartHRでは、2024年からコンテンツマーケティング部の中に「エンタープライズマーケティング担当」を2名配置しましたが、そのメンバーはエンタープライズ領域のツボをおさえ、自律駆動してコンテンツを制作しています。

SmartHRの2024年2月現在の組織図に、私の考えを追記してみた

さいごに

最後に、私がこの記事のタイトル「エンタープライズマーケティングなくしてエンプラシフトの”大”成功はなし」の”大”成功という表現に込めた思いをお話しさせてください。

おそらく私たちエンタープライズマーケティングがいなくても、セールスの個々のスキルやISとの密な連携があれば、エンプラシフトはある程度はうまくいくと思います。ただ、冒頭にもあるような「エンプラシフト」という2024年の波に乗り、事業成長の一翼といえる成果を出すには、マーケティング部門も含め社内全体で横串を刺した総動員での取り組みは欠かせないと考え、ここまでやり切った先にロケットの飛翔のような”大”成功がある、と信じています。SmartHRもまさにこの横串の活動に奮闘中で、以下の記事で具体的な取り組みを紹介しています。ぜひご覧ください。

いかがでしたでしょうか、感想や意見、ツッコミなどお待ちしています。(私のXアカウントはこちらです

次回は、SmartHRにおける実際のエンタープライズマーケティングの取り組み事例や具体的な成果など、より実務に近い情報を提供しようと思います。
SmartHRではまだまだ発展途上のエンタープライズマーケティングに挑む仲間を募集中です。まずはカジュアル面談からでも結構ですので、こちらもぜひDMからどうぞ。ありがとうございました。

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