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新しい大河を見たら「これってめちゃくちゃおいしいうどんパフェだったのでは?」と思った話

かなり長い事、NHKの大河ドラマを見ていなかったのですが今年は紫式部が主人公と聞いたのでちょっと気になっていました。とはいえ元々ドラマをリアルタイムで追うのが面倒くさくて見れないタイプなのでNHK+で見る事にしてました。
そして迎えた第一回。
XのTL見てたら「面白い」っていう感想もいっぱい流れて来たんだけど「根本的に設定があり得ない」っていう識者のご意見が流れて来たんですよね。
私、それを見た時はこう思いました。

「いや、大河って戦国武将が実は女性だったとか、史実で亡くなったはずの人をその後もオリキャラみたいな枠で出したり、歴史が動いたその場には必ず前田のおまつ様あり、で花の慶次か?みたいな事やってる枠ですやん。だったら式部と道長が幼なじみも否定する根拠ないならセーフセーフ」
「そんな枠なわけで、大河なのに史実というか学説と違うって今更言ってもどうしようもなくない?学説準拠を求められるハードルがやたら高いのNHKだから?」

↑これは今も思ってるんですが、歴クラとか史実重視の人が悲鳴あげてるから何がダメだったんだろう、と思ってやっとこ本日見てみました。

開始後5分の私
「この時点で既に史実がどうとかいうタイプのドラマじゃないやん。精霊の守人の構文のドラマやんこれ」
その呟きを見た相互さん
「ファンタジーね!」
思った事を言語化してもらった私
「それ」

Xで「始まる前からスタッフがこのドラマはフィクションだからね!ってすげーアピールしてる」っていうポスト見てましたが、開始5分でそれを理解らせられると思ってなかった。
安倍晴明が出たからファンタジーじゃなくて、映像がファンタジー物の作りなんですよ、カメラワークとかそういうやつ。(と私は感じた)

日常パートが始まったのを見た私
「内裏とかの映像はそれなりに存在した記憶があるんだけど、こういう貴族だけど貧しい的な層の家をここまで細やかに見せてくれた映像ってもしかして初めてなのでは?」
源氏物語とかで、貧しい貴族の家に源氏とかが通うエピソードがありますが大和和紀先生の「あさきゆめみし」でわり詳細に漫画に描いてもらってたけれどこういうお金かけたセットで細部まで作り込んであるのは初めて見たかもしれない。
「平安物の話を読む時に必要な知識の解像度の桁が上がったなこれ」
※ここは大絶賛してる

東三条殿の引きの画像、4K!みたいなオーラあったと思う。めっちゃキラキラしてて「最高位の貴族~」っていうのがとてもとてもわかりやすい。

問題はその後。その後です。
「これは確かに(従来の)大河じゃないわ」※怒ってはない。感想
最後まで思った事は常にそれ。
何が違うか言語化できないまま見ていた時の感想
「これ、少なくとも出て来る実在の人物の関係とか身分による振る舞いとかそういう知識が頭に入ってる人がそれをイメージしながら見ていたら噴飯物だろ」※ここでは噴飯物という言葉は「ショックでお茶を吹く」の意味で使っています。

あのねえー、これねえ、歴クラの中に受け入れられない人が出るのかすごくわかる気がしました。
「明瞭でわかりやすい」んですよ、このドラマ。

実際の史実って、立場や関係から敵や味方が発生するけれど絶対的な「悪」っていないじゃないですか。
従来の大河の場合、史実ネタの場合、性格付けの解釈のオリジナリティから発生するドラマがほとんどだったと思うのですごく詳しい人だと「これはないわ」と思う事があったとしても大体の人には「これもあり得たかもしれない」という「ifの物語」として受け入れられる範囲に収まってたと思うんですよ。

だけどこのドラマはそういう作り方ではなくて「こいつは悪!」「この人は真面目な人」という「キャラクター」が一目でわかるようになっています。
人間関係もすごく単純化されてシンプル。実際の人間関係だったらありえないくらいにすっきり整理されている。なので「作り話の味」がするんだと思います。

これまでが時折はそこから逸脱しつつも「大河=史実のif」という前提に収まって成り立って来ていた所でこれが出て来たら面食らうのは仕方無いだろうな…ってなりました。
私の認識だとここまで登場人物の性格が明瞭で、関係性もわかりやすく整理されているのって一般的な小説や重ためのドラマではなくマンガやライトノベルの表現に近いんじゃないかと思います。
そこに対する私の感想これです

https://twitter.com/yusula/status/1746055856188543359

多分ですけど、史実に詳しい人だと史料から為人とか人間関係の知識を得ているので自分なりのイメージもあるため「ドラマというより歴史秘話ヒストリア的な歴史の解説番組の中で流れる、素人にもわかりやすく出来事を単純化した再現映像」みたいな受け取り方になる事もあるんじゃないかなあと思います。

それで、なんでそうなったかというとおそらくは題材が「平安時代」「紫式部と藤原道長」だったからかなあと。この要素は知名度から言ったら戦国時代の題材に遠く及ばないんだと思います。

「徳川家康」と言ったら「豊臣家との対立を経て天下を取った」とか「武田信玄」と言えば「上杉謙信との川中島」みたいなドラマのあらすじとメインエピソード程度は知っている人はそれなりにいると思います。
でも平安時代に興味がある人でもないと紫式部と藤原道長の関係がぱっと出て来る人、そんなにいないのではないでしょうか。

だから逆に平安物が好きな人だと「紫式部と道長が幼なじみ???娘のサロンを盛り上げるためにスカウトした人材なのに??」みたいに困惑するのとは対照的に「へー、源氏物語の作者ってこの世をばの人と幼なじみなんだー?」で特に気にしない人が多い状況が発生したりしちゃうやつ。

例として徳川家康の話だと、史実をやたらと細かく解説しなくても「理解している」人が多いのでむしろ「例のあのエピソードは実はこんな内幕が」みたいなひねりを効かせた解釈を俳優さんの演技力で「さも本当にそうだったか」のように見せる事が可能だと思うんですよ。

だけど「大納言?なにそれおいしいの?あずき?」みたいな感覚の人が少なくないと予想される状況で平安時代の物語を作るならいつもより三段階くらいわかりやすくする必要があるんだと思います。

ちなみに「わかりやすさ」はシナリオだけでなく衣装もです。
「身分が高いと模様があって光沢がある着物」「身分が下がるほどに生地が薄く、色も濁って柄もなくなって行く」というルールがあるのがわかります。
ちなみにまひろちゃんは柄ありの着物で三郎くんは無地ですが、よく見ると三郎くんの着物は光沢があるんですよね。色も透明感があって鮮やか。多分、着物に詳しい人が見たら一発で「あっちの方が高給な生地」ってわかるみたいなやつ。そもそも「白い着物が白い」という事にコストがかかる事は大人だったら大体知っているので明確に「三郎くんの袴が白いのはハイソエティの演出だな」と意識しなくても「良いところの子供」という前提が無意識に補強される仕掛けになってるんじゃないかと思います。

物語の作り方への不満も目にしたのですが、おそらくはマジョリティに当たる層の平安への理解度に合わせて調整した結果がこれなんじゃないでしょうか?プロの仕事なので「多くの人に理解してもらうにはどういう書き方が必要か」という計算でやってるんのかもしれません(推測)

イメージ的にこれまでの戦国物は歴史の知識の中級者くらいを想定して作られていたのが今回は入門編で、更に平安に詳しい人が見たらわかりやすくするための方法が「コミカライズされた小学生向けのシェイクスピアが原作」みたいなやつなんじゃないかなあと思ったりしました。

私も「何もわかりやすさのためにここまで、というか思い切ったなあ」と思ったんですが、落ち着いて考えるとこの作品の登場人物って名前の時点で「当社に藤原は30人おりまして。メガネをかけた藤原?それも7人おります」状態なんですよ。
「道道道どんだけいるん?」って困っちゃう人絶対いる。
この時代の変わりまくる天皇の名前と歴代の順番がスラスラ出て来る人もきっと、そう多くない。

ちなみに私は「知ってる方」に入るはずなんですがしばらく平安物読んでなくて忘れちゃってて道兼さんがどんな死に方した人か忘れてちゃってたので漫画日本の歴史出して来てそっちの顔で思い出したりしてました。
多分、よっぽどこのドラマにハマった人でもないと役名で覚えるの厳しいと思います。きっと俳優さんの名前とか「まひろのお父さん」みたいな覚え方になっちゃうと思う。
※ここまで書いて「なんかこう、大河にするにはかなりアウェイな題材なのでは?」という気付きを得るに至りました。

というわけでここまでが「これまでの大河と違うと思う所と、どうしてそうなったのかという一般人の推測」なんですが、これの結果「このドラマが合わないって思った人はどうしてそう思ったか」の例の一つの考察がこちら

「出て来る料理に一定の信頼がおける店がイタリアンで名を馳せたシェフと契約してうどんを素材にしたメニューを出すと発表した」
「イタリアンシェフの調理というのが気になるけど腕のいい人だし最悪、カルボナーラうどんくらいまでならなんとか許容できる」

・出て来た物は「うどんパフェ」
それも、普通のうどんをパフェ盛りにして映えさせたとかではなく、生クリームとかフルーツソースを使ってマカロンとかブラウニーがトッピングされている「わかりやすいパフェ」

「味はパフェとしてはとてもおいしい。うどんがないとこの味が出ないのがわかる味はする。でもうどんとしての自我は死んでいる味がする」

使われたうどんは最高の職人が最高の粉で打った物。
うどんにこだわりがないと「攻めるwwwでも美味いwww」で食べられるけどうどんマニアの人だった場合「素材となったうどんの味、ちゃんと食べてみたかった…」ってなるやつ

要するに「王道で勝負できる素材がめちゃくちゃに変化球で味付けされしまった」事がショックな人が一定数出るタイプの攻め方なんだと思います。

実際「もうちょっと自然な演技であの人達が動くのが見られると思ってそこを楽しみにしていた」っていう感想の方もいらっしゃいました。それはすごくわかる。

今回は「店ごとのうどんの違いがわかるお客さん」より「うどんでどこまでやれるかを楽しみにできる人」向けになっちゃってるんだよなあ、という感じ。私の率直な感想これでした。

これ。よしながふみ先生の大奥的なアプローチで式部達の物語が始まると思っていたら恋愛要素強めの劇場版名探偵コナン(推理物という事ではなくシナリオの面白さの方向性が近くて有名なのが私にとってはコナンという事です)がが始まったので「おもしろいんだけどこういう作品だったのか」とはなりました。

私は見始めてそれを理解してからは「これ、この先どういう風に史実をはめ込んで平安物エンタメとして成立させるんだろう」という興味で楽しんでますが「大奥みたいなのが見たかった人はこれじゃないになったのわかるわー」とも思っています。

それで「平安時代における穢れに対する概念」が「ドラマだからとスルーできないレベルで間違っている」という話を見たんですが、高位貴族の道兼が人殺しというタブーを犯す必要性について「わかりやすくサイコパスと表現するため」という意見に賛成してたんですが第一回を見て、もう一つ意味があるのではないかと気付きました。
それは一年という長尺で作るドラマの中での伏線の説得力です。

第一回ではまひろと父の不和の出発点として、まひろの父と道兼の父の間にできる柵の理由として東宮時代の花山天皇が登場していました。
変顔の演技が話題になってましたが見事なクソガキぶり。
「クソガキ」としてインパクト抜群だったので半年かそこら経ってから大人になって登場してからも視聴者には「あーあのクソガキだった人か」って印象が刷り込まれているので彼に起きる事件を見ても「ああいうクソガキだったし理解しかないわー」って感想になるんだと思うんですよ。もしかしたら同情を誘う展開とかの可能性もあるけど、とにかく「あのクソガキだからな」っていう刷り込みの効果は抜群だと思います。

それと同じでおそらく道兼の最後も描かれるはずだと思うですが、彼を悪役として描く場合、史実にそった常識の範囲内で暴力的に描いてもそれほどインパクトが出ないと思います。
しかし今回は「主人公の聡明な母を殺した犯人」というラベルが貼られたので、彼の最後に至った時、見ている人のカタルシスは強烈になるはずです。
「ざまあwwwくやしいのうwwくやしいのうww」みたいなやつ。

普通の大河ドラマだとそこに持って行くの難易度高いと思うんですよね。
というかそもそも、普通はそこまで「わかりやすく」してないんですけど、今回は特別「わかりやすく」なっているので。

時代劇を作る場合、ある程度は史実に沿う事が要求されますが、このドラマはそれよりも「わかりやすくハラハラしたりドキドキしたりワクワクする」という方向で作られているように見えます。そうなると「史実と異なる表現避ける」と「一年かけて物語を追う人が開始直後の重要な伏線を確実に回収できる構成」が天秤にかけられた場合、取られるのはおそらく後者なのだと思います。

「エンタメ重視で外せないポイントを雑に扱われた」のは確かなんですが大河は「現代と異なる時代の感覚を正確に伝える」事を目的としていないのでこういう事も起きてしまうのかなと思いました。
代わりに「貨幣での売買は一般的ではない」「馬鹿という概念は一般的ではない」など細やかな部分はきちんと平安の暮らしを正確に伝えてくれている作品です。

専門外から見た感じだと穢れという概念の扱いが誤っている件については「接客業でイレギュラーな対応が神対応として拡散されてバズったので、あれが一般的な対応という風に定着しては困る」と感じた人が「拡散希望。このようなポストがバズっていますが(略)」っていうカウンターと近い物があるなと認識に至りました。
大河だから全てに正確な考証を、とは思わないんですがデマが拡散定着しちゃうと困るポイントであるのは確かなので、できたら今後の作中でフォローがあったらいいなあ、とは思います。

その一方で「すでにカットしたうどんにいちごソースを和えた状態になっているのでいくら訂正を希望しても出汁のうどんには戻れないやつだよ…」というのが正直な所です。だってあれもう、穢れの扱いが不正確という点が物語に響く響かないのレベルじゃないと思うんですよね。
「うどんなのに出汁がない」っていう指摘が来てもそもそも出汁を使うという発想がないとかそういう感じ。店と商品のコンセプトと客の欲しい物がかすりもしてねえ。辛い。

出汁繋がりで「大河なのに史実と違う系の人おるけど司馬遼太郎とかどうなるんだよ」っていう話題が出たのでそれに対する私の認識。

さっきも言った通り、このドラマが「めちゃくちゃおいしいうどんパフェ」だとしたら司馬先生のは「史実ベースだけど巧妙に創作を混ぜている」なので「普通のうどんだしに見えるが鶏ガラスープとかコンソメが微妙に入っている物をうどんを食べた事がない人が食べて『これが一般的なうどんだしの味』と認識したため、後に正統派のうどん屋さんのうどんを食べて「味が違う。本当のうどんだしはこれじゃない!」って譲らない現象が起きて普通のうどん屋さんの説明を否定する客が出て困る」とかそういうやつだと思うんですよね。
※これは司馬先生をディスっているのではなく司馬先生の本を根拠にお気持ち表明するのがあかんやつという話です。

なんか気付いたらすごい文字数になってるんですが私はおもしろいと思ってみれるドラマですが「楽しみにしてたのに合わなかった」という人がいたのでもし心の靄を言語化できなくて困っていたとして私の考察が当てはまる人がいたらモヤモヤがストンとする人もいるかなと思っていて見ました。

正直私も「大奥と思ったらコナンだった」ので相当動揺しているため、書いて落ち着きたかった所はあります。

※こういうテキスト書くと「私はこんな事思ってない!馬鹿にするな!」ってキレ散らかす方が稀にいるんですけどこれはあくまで、私の想像した一例のまとめであって「これが当てはまる人もいるかも」という話なので「違う!」という人は自分で自分の気持ちを言語化してみて下さい。

いやー、でも現時点でドラマとしてむちゃくちゃおいしいのはおいしいんですよねクセが強くて食べられない人がいるのもわかるんですけど。

最後にこのドラマに期待してたのに合わなかった人へ
私はそれなりに楽しんで見てるのは確かなんですが、ドラマの大奥で推しを最高の演技で演じてくれて感謝していた俳優さんがですね、今後このドラマの話になったら何年経っても画像と名前が出て来るんじゃないかと思うレベルのサイコパスを担当してるわけですよ。そこだけはちょっと辛い。
ご本人も「僕の事は嫌いになっていいからドラマは嫌わないで下さい」って仰ってるのがまた辛い。
そんな風に色んな角度で色んな人の心にひっかき傷を作ってる作品ですね、これ、うん。

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