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🍥豚バラ軟骨煮込み🍥


じっくりと煮込んだ豚バラ軟骨のうまさは異常だ。

どれほどの異常さかというと、四人の子供を育ててくれた父の正体が「ひょうすべ」だったほどの異常さだ。

過去と未来あべこべをみつめる
父ひょうすべ


たとえひょうすべであろうと父は父だ。そっとしておいてくれ。

さて、家族のセンシティブな事情は置いておこう。

豚バラ軟骨とは、肋骨と胸骨の間部分の肋軟骨のことで、一頭の豚から500〜1,000gほどのわずかにしか取れない希少部位である。

パイカとは豚バラ軟骨の俗称

希少と言うと聞こえはいいが、いわゆる「トリミングされる」方の、場合によっては破棄されていたような部位だ。

こういった、ともすればないがしろにされがちな部位とはいうのは、大概が煮込んでしまえば美味くなるものである。これは万有引力も裸足で逃げ出すほどの真理だ。したがって、豚バラ軟骨は我が家の定番メニューになって久しい。

特筆すべきは、その安さだ。

大体、100グラム70〜98円といったところで、48円という神をもおそれぬ価格で入手したこともある。

仲間のような顔をして、ちゃっかりと高級食材の仲間入りを果たした牛スジの裏切り者とは大違いの破格さだ。

グラム48円というと、当たり前だが480円払えば1キロの豚バラ軟骨を買うことができ、1億キロだと48,000,000,000円で買うことができる。

これだけ大量の豚バラ軟骨を熱量で換算すれば、月面着陸だって不可能ではない気がする

ただ、私には48,000,000,000円分を買って置く場所も資金力も心意気もないので、今回は2.5キロで勘弁して差し上げることにした。

控えめの月面着陸

とはいえ、我が家は妻と幼い娘の三人世帯なので、この量もやや乱暴といえるだろう。

大量に煮込む理由は幾つかあるが、小分けにして冷凍庫にストックしておいたときの、いわば「霊験れいげん」によるものが大きい。

たとえば、仕事での胸突むなつ八丁はっちょうに差し掛かった場面で、冷凍庫にある軟骨煮込みを想えば、何とか乗り切ることができる。

たとえば、悪魔に憑かれた少女が緑色のヘドを吐きながらラテン語で聞くに堪えない罵詈雑言ばりぞうごんわめき散らし家具が宙を舞っても、冷凍庫にある軟骨煮込みを想いながら上の空で聖水を振って、効果がなくなったりすることもできるのだ。

茹でこぼされた霊験


作りかたは至って簡単だ。

切り分けたバラ軟骨を茹でこぼす
湯を捨て、灰汁あくのついた軟骨をしっかり洗う
ひたひたに水を張りネギ頭、たっぷりの生姜を加える
沸騰させ灰汁が出たら取る
下茹でした大根を加える
醤油、赤酒を1:1の同量加える
落とし蓋をして煮込む
ネギ、生姜を取り出し余分な油脂をすくい取る

酒と米はおろか
あなたの心まで奪う軟骨


生姜はケチらずに皮ごとざくざくと切って大量に入れたほうが良い。食品用ネットやガーゼにくるんで煮込めば後が楽だ。

赤酒が手に入らなければ、清酒4砂糖3醤油3くらいの割合いのものを代用してもいいだろう。

圧力鍋を使えば楽だが、私は普通の鍋で半日くらいかけ、酒をダラダラと飲みながら煮込む。味に好みがあるように、時間の使いかたも十人十色である。


じっくりと煮込んだ豚軟骨のうまさは異常だ。

肉の味わいはもとより、軟骨が舌先で溶けて消滅する。

その名に骨を冠しておいて、咀嚼そしゃくする間もなく夢のごとく消え去るとは何ごとか。


以後、骨を名乗ることを禁ず



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