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🍥大葉と燻たこの冷製パスタ🍥


「一番に好きな食べ物は?」と問われても答えに窮してしまうが、香草はと訊かれたら答えはひとつだ。

私は、大葉偏愛型人間シソノイドである。

先日の記事で紹介したジャンボン・ペルシエパセリを大葉に置き換えてジャンボン・シソにするほうが好きだし、ペペロンチーノだってイタリアンパセリを使うよりも断然大葉だ。ついでに言うと、厄除けには盛り塩ならぬ「盛り大葉シソ」だし、悪魔祓いエクソシズムに使う聖水なんてたっぷりの大葉入りで堕天使ルシファーも裸足で逃げ出すほどに爽やかな香りがする。結婚式の御祝儀には5枚も包んで大葉だけに大盤オオバん振る舞い、なんて諧謔シャレで友人をよく減らすし、私の戒名は「香草院大葉紫蘇大盛爆烈居士」に決まっている。

まだまだ大葉愛について述べたいところだが、これ以上の大葉談話しそばなしは、さすがに皆さまの耳にタコが出来てしまう。

耳をタコにシソびれた──代わりといっては何だが、大葉とタコをひと皿にしていこう。


まず、タコを燻製にしていく。大葉偏愛型人間シソノイドである前に、私はひとりの燻煙偏執狂スモーキングパラノイアである。息を吸い、そして──それを吐くように、

燻製をせずにはいられない。


さて、早速タコに下味をつけていこう。

加熱処理済みのタコを、3倍濃縮のめんつゆと水
1:1で浸し、冷蔵庫でひと晩漬け込む

ハーブやスパイス、ワインなどを加えた漬け込みソミュール液を作るのも燻製における醍醐味のひとつではあるが、面倒臭い時間の調達が難しいときに、めんつゆや白だしは頼りになる和風のソミュール液だ。

漬け込み後、拭いたタコを燻製器に吊るし、
55℃で30分ほど温熱乾燥にかけて結露の防止とする

タコがしっかりと温まったら、ヒッコリーのウッドチップにサクラを加え、55℃のまま3〜40分に一度チップを追加しつつ、計3ターンの燻煙にかける。オイルに漬けて香りを移すのも目的のひとつなので、強めの燻製で良いだろう。

燻製後、圧倒的な存在感を放つタコ

ちなみに、この写真はタコの化物クリーチャー感がよく表現できたので気に入っている。しかし、この写真を眺めていると、20年ほど前に観た「オクトパス」という巨大化したタコが原子力潜水艦を襲うというトンデモ映画を思い出し、そのとき過ごした2時間弱を想って何とも哀しい気持ちになってしまう。

タコで発生した哀しい気持ちは、速やかにぶつ切りにしてオイルで封をしてしまおう。

潰したにんにくを加えて太白ごま油を注ぐ

オリーブオイルも良いが、良くも悪くも「料理の一味」として機能するものなので、クセのない太白ごま油を使い、一週間ほど寝かせて燻香を馴染ませていく。

次に、ジェノベーゼソースを作っていく。

《材料》

・大葉      好きなだけ
・太白ごま油   好きなだけ
・木の実     好きなだけ
・パルミジャーノ 好きなだけ
・にんにく    好きなだけ
・塩胡椒     好きなだけ

※木の実は松の実、カシューナッツ、くるみ 等
※チーズはペコリーノや粉チーズでも◯

《大葉ジェノベーゼソースのつくりかた》


①材料をフードプロセッサーに入れる

②ウィーン

完成だ。

木の実とチーズは味をみながら足していくのが良い。さっぱりと仕上げるなら、チーズを減らす、あるいは抜いて、塩やアンチョビ、酒盗で塩味を足すのが良いかもしれない。
にんにくの過ぎた鮮烈さは、一度オイルでゆっくりと煮出すことによって、カドの取れた味わいになる。

出来上がったソースを冷蔵庫で冷やしている間に大葉を刻んでおく。ちなみに、今回のソースには40枚、トッピングに2〜30枚ほどの大葉を使用した。私のなかの悪魔ディアボロが「それでは足りぬ」などと囁いたが、「家計」という悪魔を従えた妻の目もあるのでやめておいた。

標準的な1.4mmのパスタを表示時間よりも少し長めに茹で、すぐに氷水で締めて水分をよく切る。
よく冷やしたソースと燻製タコをパスタとよく絡め、大葉をあしらって完成だ。

フォークでタコを刺し、パスタと大葉をぐるぐると巻きつけて口に運ぶ。

なんて──うまさなんだ…。

あまりの衝撃に鼻血が滴り落ちるが、その色は緑であった。私の大葉閾値シソいきちが基準値を上回った証左である。
もうひと口と手を伸ばそうとするが、机に張り付いた手は離れない。吸盤であった。無数のそれが机をとらえて離さない。ふと妻を見ると、そこには緑色の──タコがうごめいていた。

かつて妻だったタコが──大葉に擬態したのであった。


怪奇蛸夫婦はさて置いて、燻製タコの「噛めば噛むほど」感は筆舌に尽くし難いものがある。

幼いころには、飲み込みかたがわからずにいつまでも口のなかにあったタコが、いまでは続く味わいが名残惜しくて嚥下できずにいるなんて、想像だにしなかった。

──歳をとったんだねぇ…

喉元まで上がってきた台詞セリフを、タコと一緒に何とか呑み込んだのだった。




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