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詩「Ghost」


ぼくはあの橋の手前で
ずっと待っていた

夜の暗闇の中で
雨が降り続いていた

街灯に群がる虫と
その下に広がる無数の死骸が
季節を知らせていた 

例えば今ぼくが立ち去った後で
あの人が現れたら?

ぼくは一生後悔するだろう

しかしこの先一生
あの人が来ることがないとしたら
それはとても悲しいことだ

悲しまないためには
立ち去ることも必要なのかもしれない 

長い時間が過ぎた

時々自転車や歩行者が通っては
ぼくをがっかりさせた

ぼくは見えない存在だから
誰も気にする人はいない

それはとても気楽で
とても寂しいことだ

ぼくが今あの人を待っているのは
あの人も同じと思ったからだ

あの人は人間なのに見えなくて
気楽なのに寂しかったからだ

今まで出会った中にそんな人はいなかった

だからぼくは待っていた

するとやってきたのだ
あの人が

ぼくはそれだけで満足だったのだが
気づくとあの人はぼくを見返して
笑った 

それでぼくは消え去ることができた




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