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コロナ隔離中、我が家の受験生についてのあれこれ

「連日○万人の検査陽性者」という報道が続いている新型コロナウィルス感染症の第七波。わたしもついにそのなかの一人になった。自宅療養中に、隔離生活をしている図書室兼アトリエの片隅でこのnoteを書いている。

中三の長男の三者面談のために休暇をとった。夏休みの炎天下を長男と歩いて中学校へ。ちょっとでも涼しいところが良いのでと川沿いを歩いていたら、きれいな錦鯉の死骸が浮かんでいた。こんな錦鯉はふつうは川には居ないよね、どこからきたのだろう、などと話しながら中学校に到着。隣接する高校の校舎を横目にしたけれど、進学については話さぬまま。その高校は長男の志望校だ。

面談では成績と進路選択が中心トピック。11月に予定されている次の面談までには時間があるので、それまで、とくにこの夏休みをどう過ごすかが重要ですねという、あたりまえといえばあたりまえの話に終わった。

その次の面談までに定期試験と学力試験がある。私立高校を受験するのであれば、その時点の学力をもとに絞りこみましょう、公立高校は年明けでじゅうぶんです、とのこと。さらに高校の説明会がそれぞれであるので足を運んで実際に見てくることを勧められた。

ほかには学校での友達関係のこと、部活でのことなど。そういったことを長男と確認するように、担任の先生が話しかける。
 「あの子たちとも仲が良かったの、意外だな」と先生。
 「修学旅行でおなじグループだったので、それからです」と返す息子。

担任はもうじき定年退職というベテランの先生。よく見ているようで、こうして話さないとわからないこともあるんだな、と思う。また、こうして保護者の前で話して共有することも目的なのかな、とも思う。

そうそう、担任の先生は夏休みの過ごしかたについても長男に尋ねていた。
「昨日は何時間勉強したの?」
 「・・・ゼロ」
「うーん、じゃあ一昨日」
 「2時間・・・ぐらいです」
「少なすぎるなぁ。今日すでに2人面談したけどね、彼らは6〜7時間やってるって。さすがに2時間はマズいなぁ」

ちょっと気まずかったので親としてフォローをいれた。
「塾では夏期講習に行かせています。さらにオンライン自習室というのを平日の夕方1時間半、やってくれています。その時間は集中して勉強できているようです」

ああ、これも保護者との情報共有なんだな、と思った。中学生の勉強時間をしっかり把握できてる家庭なんて少なそうだし。いや、時間だけじゃないだろうとも思ってしまうけど、勉強量を測る指標の一つとして不適切というわけでもない。何問解いたかなんて聞かれても答えられないだろうし、やっぱり時間数を聞くのが適当なのか。長男が自習を習慣化できていないのは事実なので、
「これを機に勉強を習慣づけられれば良いかと期待しています」
と付けくわえた。

面談のあと、この日たまたま事務室に詰めているという部活の顧問の先生にも挨拶にゆき、帰宅の途についた。まだ午前中ではあったけれど、あいかわらずのまとわりつくような暑さだった。川面を反射しているかのように蝉の鳴き声が響いていた。往路に見かけた錦鯉はもう見あたらなかった。

午後には次男の小学校での面談の予定も入っていた。こちらは担任と保護者だけの二者面談。わたしと妻のどちらが行くかは決めていなかった。炎天下を歩いたわたしは疲れてしまったので、小学校のほうは妻にお願いした。

小学校のほうは中学受験をするわけでもないので、勉強面よりも生活面、あるいは本人の性格などにフォーカスした話になる。妻はいくどか担任の先生やスクールカウンセラーに相談したことがあったので、わたしよりも適任だ。次男には建築関係に進みたいというはっきりした夢がある。そのうちそこに的を絞った面談が必要になってくるかもしれない。そうなってくるとわたしも面談に赴くべきだろう。

その日の午後、つまり妻が小学校の面談からもどってからだけど、別件の予定がはいった。とあることで妻が電話をかけていて、直接話しましょうということになった。わたしも休暇で在宅しているので同席した。

詳細は省くけれど、個室でおよそ1時間あまり。感染防止に効果があるのかないのかわからない透明アクリル板のついたて越しに話しこむ。その間、なぜか咳が出た。思えば新型コロナ感染症の初期症状だったかもしれない。全員がマスクをしていたとはいえ、先方にうつしていないか心配だ。

発熱したのは、その日の夜。38℃超。

念のため、このときからわたしは隔離生活にはいった。アトリエにマットレスを敷き、食事は妻に運んでもらう。我が家ではふだんから洗面タオルや歯磨き粉もひとりひとり別のものを使っているので、隔離するのはそう難しいことではなかった。隔離の部屋は図書室兼アトリエとは呼んでいるものの、実態はおおきな物置状態で、雑多なモノで溢れかえっている有様。この日のためにものを減らして快適に過ごせるようにしておけばよかったと後悔した。

それよりもとにかく検査しなくては。

いまは新型コロナウィルスの抗原検査が主流だ。ただ、認可を受けた医療用の検査キットはいずれも品切れ。認可を受けていない「研究用」とされるものだけがあり、価格はバラバラ。翌日届くものは限られていた。

安すぎず、それでも早く届くものをネット注文。自治体のウェブサイトによると、無料の医療用検査キットを送ってくれるとあったけど、そちらは最低数日かかると。念のためそちらも家族全員分を申し込んだ。

翌日届いた研究用検査キットをつかうと、コントロールラインとテストライン両方に赤紫の線が出た。新型コロナウィルスのNタンパク質が検出されたということだ。

翌日、発熱外来へ。朝、妻が予約をとりに行ってくれた。その病院では一日に130名(うち子供30名)を上限にしている。わたしは115番目だった。

予定時刻よりもすこし早くに行ったけれど、結局1時間以上外で待った。前日同様、ジリジリと肌を焼くような陽差しだった。発熱していたこともあって、この待ち時間はかなりキツかった。

診断には使えないとわかっていながらも研究用検査キットで陽性だったと看護師に伝えると、意外な回答だった。

「あ、検査されたんですか。(わたしの書いた”研究用抗原検査”の文字列を指して)これは、製品名ですか?」と看護師。
「(字が汚くて読めなかった?)いいえ、研究用云々と書いただけで、製品名は○○○です」
「(研究の文字列を見て)研究用ということは何か検査のお仕事ですか?」
「仕事は無関係です。キットが医療用ではないので有効ではないとは思いますけど、念のため書いておきました」

看護師はわたしの告げた製品名をどこかで確認し、無効なのでこれから検査しますということだった。なおPCR検査は時間がかかるので、その病院ではもっぱら抗原検査だった。その抗原検査、もしや病院側は世間に「研究用」として認可を受けていない検査キットが出回っているのを把握していないのか。そのことに、先ほどのやりとりで気がついた。

陽性者の急増で検査キットが不足している。この「研究用」キットはその不足を補っているともいえる。病院での診断に使えなくとも、患者が仮に判断する際の手助けにはなる。しかし、実態は非認可のキットを感染爆発に乗じて売りさばいているだけかもしれない。「研究用」は非正規品の言い換え。事実、「検査キットの判定結果は、治療及び、診断目的に使用できません」と書かれている。考えようによっては、まったくの偽物が売られている詐欺であっても不思議ではない。

信用できない「研究用」キットの結果では、感染したのかしていないのか不明なままだ。わたしは感染していることを想定して隔離生活をし、こうして病院の発熱外来に来ている。この瞬間、感染したわたしと感染していないわたしの両方が存在していて、あと何分かのち、病院での検査結果が出てはじめて、どちらかのわたしに一本化される・・・と、量子論のシュレディンガーの猫みたいなことを考えながら暑さに耐えて検査結果を待っていた。

結果はやはり陽性だった。

診察があり、症状にたいする薬が処方された。

かくして、わたしは自他ともに認める新型コロナの感染者になった。そうなると家族にも仕事仲間にも影響が出る。不可抗力とはいえ、どうしてもまわりに対して申し訳なく思ってしまう。自分がそのまわりの側なら責めるようなことは絶対にしないのに、また、検査結果はどうしようもないことは頭ではわかっているのに、心のどこかで常に申し訳なさを抱えてしまうのはどうしてだろう。

家族は濃厚接触者として外出が制限される。長男が夏期講習にかよう学習塾ではオンライン対応してくれた。しかし長男といっしょに行く予定だった週末の「進学フェア」にはわたしは行けなくなってしまった。進学フェアは近隣の私立高校と公立高校がブースをならべて説明したり相談にのったりしてくれる催しだ。

このまま家族に陽性者が出なければ、わたし以外の家族は進学フェアの日にはギリギリ外出できる。そういうわけで、妻と長男は残りの研究用抗原検査キットで陰性なのを確認し、その進学フェアに出かけていった。

進学フェアはすごく混雑していたらしいけど、いくつかの高校のブースで話を聞いて帰ってきた。それぞれのパンフレットを眺めると学校ごとの特色がちょっとずつ見えてくる。けれど、やっぱりわからないこともたくさんある。長男はまだ具体的なイメージが湧かないのか、曖昧な反応しかしない。入試まであと半年ほど。大丈夫なのか。

自分が中学生のときを思い出す。

高校以降のことなんて想像できていなかった。状況はもっともっと単純だったはずなのに。30年以上前の地方都市。進学希望であれば、学区内の進学先ははじめから数校にしぼられていた。生徒は成績にあった学校を受験して進学するだけだった。

いま、少子化だというのに首都圏にはおどろくほど高校の数がおおい。わたしには土地勘がなく、校名すら聞きなれない学校ばかり。入試の成績に加算される内申点の配分は学校によって異なる。私立高校にいたってはさまざまな推薦形式が用意されている。わけがわからない。

わたしが進路について、おおくの選択肢からいろいろ悩んだ経験は大学受験のときがはじめて。なにも悩まずに高校進学できたのはラッキーだったのかもしれない。しかし悩もうと思えばそのときにも悩めたはずだ。こんなにいろんな高校があるのにいまいち悩んでいる様子のない長男。そんな長男の様子にちょっとイライラしてしまっていたけれど、よく考えれば自分も似たようなものだった。

自治体のウェブサイトから注文していた抗原検査キットがようやく届いた。これだけ陽性者が増えているからか、ウェブサイトの「通常2日ほどで」の部分が取り消し線で消されている。実際5、6日かかっている。

わたし以外で家族に発熱者はいない。だけど妻は以前から喉が痛むと言い、長男はくしゃみをしている。妻の喉が痛むというのはわたしが発熱する前から。長男のくしゃみはおそらくアレルギーだ。

届いた医療用の抗原検査キットを試した。わたしが発熱したときに注文したので、発熱者用が1つ、非発熱者用が3つある。非発熱者用を妻と長男につかった。

結果は・・・なんと妻が陽性。長男は陰性。

妻が県の相談窓口に電話し、これまでの経緯を説明した。状況から判断して、わたしの発熱時から妻も罹患していた可能性が高いとの見立てだった。無症状の感染者が増えているとの報道があるように、そういった無症状のケースだったと判断されたか。なお、前日に研究用検査キットでは陰性だったことは話していない。

それ以来わたしは隔離生活をしている。妻もマスク生活しているし、子供たちとの食事の時間もずらしている。これらを鑑みて、自宅待機の日数カウントはわたしの発熱時からで問題がない、とそういう判断になった。ひと安心。

事実、これだけ検査キットの到着が遅れているわけだから、同様の相談はおおいことだろう。もちろん実際はわからない。隔離されるべき患者が隔離されないことがあり得るのなら、蔓延するのもとうぜんだ。

今回、ワクチンのおかげなのか日頃のおこないのおかげなのか、わたしは軽症で済んでいるし、妻はほぼ無症状。しかし報道にあるとおり、中等症や重症に急変しないとも限らない。そうしたときに、この医療の逼迫状況は危険だ。もう数日すぎるまで油断はできない。

長男は明後日に電車で30分ほどの距離の高校の説明会に行く予定。わたしも妻も同行できないけれど、2人の同級生といっしょに行くという話になっている。妻の検査結果が陽性だったとき、その説明会には行けないか・・・と表情がくもった。実際は相談窓口の電話のとおりで本人が陰性ならば可能だ。念のためマスク生活していて、それをきちんとアピールしてくれた妻の機転に感謝だ。

そして、そのさらに2日後には、近所の高校の説明会も予約している。そちらは三者面談に行く途中にとおり過ぎた近所の学校。長男の志望校だ。現時点の成績では合格可能性の低い難関校。それだけに、自分の目で高校を見て、説明を聞いて、やる気を出してくれないかなぁ・・・とオヤゴコロが疼く。

ふと思い出した。三者面談に行くときに見かけた錦鯉。死骸ではあったけれど、うつくしい錦鯉だった。鯉と言えば、登竜門の故事が有名だ。帰りに見かけなかったということは、死んでいたのではなくて、竜になったのだったりして・・・。ということは、縁起物じゃないか。家族で新型コロナ陽性がつづくものの、かろうじて志望校の説明会に行けそうな長男。縁起の良い錦鯉。なんだか良い方向に向かってる?そう信じて、どこかのタイミングで登竜門の故事について長男に話すことにしよう。

わたしの自宅療養期間はのこり数日。これ以上、妻と子供たちに影響が出ないことを祈るばかりだ。

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