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夜はいろいろな顔を持っている・・・手塚治虫没後33年

2月9日は手塚治虫さんの命日。昨年noteに書いたように、わたしは毎年この日には手塚関連の絵を描いて追悼している。

ちょっと遅れたけれど、今回もnoteで手塚さんを偲ぶことにしたい。

◆◇◆

わたしが小学生のころ、講談社から手塚治虫漫画全集が刊行されていた。その全集の何冊かを買ってもらったのがはじまりだった。鉄腕アトムやリボンの騎士、ふしぎなメルモなどのテレビアニメも観ていたけれど、漫画の単行本は別格だった。静止画なのにアニメ以上に動きが感じられた。何度も何度も読み返し、自分でも真似して描いた。

これは昨年のnoteでも書いたとおり。

中学生になったわたしはファンクラブにもはいり、駅前の書店で漫画雑誌を立ち読みするようになった。雑誌の手塚漫画だけを立ち読みして、単行本が出るのを待った。書店にとってはなんとも迷惑な読者だ。

そう、子供のころのわたしは、すべての連載漫画が単行本化されるものだと信じていた。単行本になったら、あとでじっくり読もうとたのしみに待っていたのだ。

しかしながら、待てど暮らせど単行本に収録されない作品があった。

リアルタイムで読んでいた雑誌連載の作品のうち、もっとも楽しみにしていたのが少年チャンピオンの「ミッドナイト」。単行本にならない連載漫画があると知ったのがこの作品だった。

『ミッドナイト』は一話完結型のヒューマンドラマだ。

主人公は深夜タクシーの運転手ミッドナイト。彼が出会う乗客との一期一会のストーリーがテンポ良く展開される。毎回「夜はいろいろな顔を持っている」ではじまり、人情話、ミステリー、サスペンス、SF、怪奇もの・・・とそのテイストはさまざま。よく練られたストーリーとそこに込められた生命観と人間讃歌は手塚漫画の真骨頂だ。

それぞれの話には題名がなく、ACT 1、ACT 2といった調子で通し番号になっている。単行本もそれぞれの巻でACT 1から9までついていた。連載もその調子だったのだけど、手塚さんの入院で連載が中断したあとはSCENE 1、SCENE 2…に変わった。手塚先生カムバック後の新展開!とワクワクして、前にもまして連載を楽しみにしていた。

さっき一話完結型と書いたけど、なかには数話つづいてストーリーが展開されるエピソードもある。植物状態の恋人や、カササギ運輸、双子の妹、予知能力など・・・心あたたまる一話一話のうしろで伏線が敷かれてゆく。わたしの好きな別の作品『七色いんこ』みたいに伏線が回収されて、ミッドナイトもきれいに完結するのかなぁと期待していた。

実際、『ミッドナイト』は完結した。伏線は回収された。それも、ほんとうにほんとうに衝撃的な形で完結した。

雑誌は立ち読みしかしていないので、単行本でまとめてもう一度その衝撃を味わいたかった。しかしながら、この『ミッドナイト』の最終回とその直前の数話こそが、単行本化されないケースだった。

連載終了後しばらくして単行本の最終巻(第6巻)が発売されたけれど、別の話で終わっていた。最終ページには「完結」の文字があった。納得できなくて秋田書店に抗議しようと思った(たしか思っただけで実際にはしていない・・・と思う)。

単行本にラストが収録されなかったのは、あまりにショッキングな内容だったからだとかいう話だ。いや、ファンにとっては尻切れトンボの終わり方の方がショッキングなんだけど。

この『ミッドナイト』最終回については、ちょうど先日、「手塚治虫全巻チャンネル」の某さんが取りあげられていた。衝撃のラストについての手塚愛あふれる解説に、「そうそうそのとおり!」と膝を打った。

このラストはですね。実に手塚治虫らしいラストなんですよ。
むしろこんなドストレートな手塚治虫を解放してくれて感謝しなくちゃいけないレベルです。
  <〜略〜>
「命」の本質という視点から見てもですね
手塚治虫の生命観が炸裂したと言ってもいい出来栄えです。

手塚治虫全巻チャンネル【某】さんの2/4付の解説記事より

ここでは勿体ぶってこれ以上は書かないので、興味を持たれたかたは「手塚治虫全巻チャンネル」さんをご覧ください。あ、もちろん『ミッドナイト』本作も。文庫版では最終回が読めます。

さて、今年の2月9日の一日一画。

そういうわけで『ミッドナイト』のコミックスを引っ張り出してきてボールペンで描いた。見出し画像はその絵と単行本。

このコミックス第3巻の表紙には、ちょっとした思い入れがある。

当時、マンガの豪華版がちょっとしたブームになっていた。『火の鳥』『アドルフに告ぐ』にはじまり、次々にいろんな漫画が重厚な豪華版で出版されていた。

そんななか刊行された『ブラック・ジャック』の豪華版。タイトルは英語で『BLACK JACK』と書かれていた。その表紙が写実的なカッコいいブラック・ジャックだった。これはのちに文庫版にもデザインが引き継がれている。

ムック『ブラック・ジャック大解剖』より、豪華版シリーズ全17冊。

中学生だったわたしは、好きなミッドナイトの豪華版化を妄想した。その表紙を描いてみたくなり、学校の美術の先生にどうしたら豪華版ブラック・ジャックみたいに描けるかと相談した。答えは油絵が良いという回答だったのだけど、道具もなければ使い方もわからない。結局アクリルガッシュか何かで描いたのを覚えている。

その時に描いた写実的なミッドナイトが、この単行本第3巻の表紙を元にしたものだった。捨ててはいないはずなので、どこかにあるのだけど、保管場所を忘れてしまった。もしかしたらまだ実家にあるのかもしれない。

手塚治虫全巻チャンネルさんで紹介されていた、ムック『ブラック・ジャック大解剖』。初回限定特典としてミッドナイト最終回の原画版小冊子がついてきたとのこと。そうそう、これが発売された2012年、わたしはモンゴルに住んでいたので買い逃したんだった。

中古でも運が良ければ初回特典の小冊子が入手できるかもしれないと聞いて、早速注文してみた。残念ながら、届いたムックにはこの特典はついていなかった。なかなか都合よくは行かないものだ(ムック自体は持っていなかったから、それはそれで良いのだけど)。

ミッドナイトにはまだ全集・単行本・文庫本に未収録の作品が11もあるという。そのいくつかは、わたしが中学生の時に立ち読みしたかもしれない。きっとまた目にする機会が訪れるに違いない・・・と期待しよう。

ちなみに、わたしがひっぱり出してきたミッドナイトの単行本と文庫本は、いま小5と中2の子供たちが集中して読んでいる。ミッドナイト、彼らの目にはどう写っているかな。

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