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Calling You by Holly Cole
riluskyEさんが「シャーマンか巫女のような歌声」と題して書かれていたnoteを読んで、真っ先にわたしが連想したのがこのホリー・コールの歌うCalling Youだった。 この曲はもともと映画「バグダッド・カフェ」の挿入歌で、映画ではジェヴェッタ・スティールが歌っていて、緩急ある美声がとても効果的だった。 ルート66沿いの砂漠の寂れたモーテル。そこに現れた場違いなドイツ人女性と戸惑う店主の黒人女性。そのドイツ人女性のマジックが受けて活気づくモーテル。ふたりの女性の心の交流、不意に訪れる急展開、さまざまな人間模様。ありえなさそうでありそうな、いややっぱりありえなさそうなこの不思議な展開。わたしが大好きな映画のひとつだ。飛行機の機内映画で見つけるとつい再生してしまう。 映画が示唆するように、人生には砂漠のオアシスがある。そんな世界観がこの曲にも染み渡っている。いわゆる単館系のマニア好みの映画だけど、テーマ曲の人気でヒットした映画だ。そのせいかとても多くの歌手がこの曲をカヴァーしている。 ジャズ・アレンジのホリー・コールのバージョンは、ヴォーカルだけでなく語りかけるようなピアノも印象的。「シャーマンか巫女のような歌声」というのは主観的でその捉え方には個人差がありそうなものだけど、どういうわけかそうだそうだと納得してしまう。 ホリーの歌声はどこか異世界に誘うような雰囲気が漂っている。名古屋クラブクアトロでのライブに赴いた際、黒尽くめの衣装とライティングで確信したのだけど、彼女には陽光は似合わない。せいぜいが月光程度のあかりで、いわば谷崎潤一郎が『陰翳礼讃』で主張した“闇の堆積”の感覚がぴったりくる。ライブでトム・ウェイツの曲を数曲歌ってくれたのも輪をかけて陰翳礼讃的だった。 ホリー・コール・トリオのこの陰影と深みのある演奏と歌声は、冬至が近いこの時期にはなぜかしっくりきて聴きたくなる。 わたしたちは1年の終わりに、起きたこと・出来たこと・やり残したことを振り返る。I'm calling youとの呼びかけが、そんな振り返りの気持ちを呼び起こすのだ、きっと。いや、振り返りだけでなく、やっぱり来年という未知の未来、異世界かもしれない未来に誘うようcallされているんじゃないか。コールさんなだけに(最後は地口・・・)。
Red Violin Caprice by Margarita Krein
先日、伝説の呪われたダイヤモンドのコ・イ・ヌールについて書いたけれど、書きながら思い出したのが1999年公開の映画『レッド・バイオリン』。わたしは名古屋駅の近くの映画館のオールナイト上映で観た。 オークションにかけられたそのバイオリンは、17世紀に作られ、数奇な運命をたどって世界中にわたり、使われてきた名器。映画の構成は、関わった人びとをめぐるドラマが代わる代わる紡がれていくオムニバス形式。ことごとく不幸に見舞われるところがコ・イ・ヌールを連想させる。 この映画のサウンドトラックを担当したのはジョン・コリリアーノ。今月の「21日の音楽」はこの映画音楽。表題曲はカプリス(奇想曲)とあるように、主題が目まぐるしく変わるのだけど、それがまた映画の構成とレッド・バイオリンの運命を連想させる。 演奏するのはラトヴィア出身のバイオリニスト、マルガリータ・クライン。彼女の燕脂色のドレスがラトヴィア国旗🇱🇻を想わせるのは、わたしが旗好きだからか。ラトヴィア国旗の色って、由来は血の色なのだ。”血塗られた”バイオリンにも通じるけど、考えすぎかもしれない。