Valentine Moon by Sam Brown and Jools Holland

2月といえばバレンタイン。本邦では女性から男性にチョコレートを贈るのが定着して久しいけれど、国によっては男性から女性に花束を贈ったりして、作法はいろいろ違っていてもロマンチックなイベントになっている。そんな時期に流れるバレンタインソングもどこか甘酸っぱくて切ない。

The first time you kissed me at the end of our street
The gas lamps shone above us, young lovers we’d meet

ノスタルジックな情景描写ではじまるこの曲は、時とともに変わってしまった街の姿をよそに、変わらず輝き続ける月光と恋心を歌ったものだ。

But the old town has gone now and it’s winter too soon
Still we waltz beneath our valentine moon

ガス燈(gas lamps)と聞くとあのイングリッド・バーグマン主演の映画を思い出すせいか、サスペンス的な不穏さを帯びてくる。ワルツから連想するのはオーストラリア民謡のWaltzing Matilda。放浪するという別の意味がある。

We danced together as old lovers do

冬が来るとか過去形の言いまわしに、もしやふたりの関係も過去のものなのかと思わされるけどどうなのだろう。

Cette fois tu m'embrasses, au bout de notre rue
Les lampes de gaz nous allumiere, toi et moi jeunes amants

後半にフランス語で歌われるのは、冒頭のガス燈の下での口づけを受けて、今度はあなたがキスしてと歌う。単純なラブソングととらえるには引っかかりのある含みに、心のどこかがちくちくする。

toi et moi というと、大きさのそろったふたつの宝石が寄り添ったデザインのリングを指す。クロスオーバーといって、斜めの互い違いのレイアウトが典型的なので、これまたどこかにすれ違いを思わせて、駆け引きがあるような単純ではない大人の恋を思わせる。

どこまでが意図されたものかはわからないし、多分にわたしの考えすぎなのだろうけど、そんなところもこの曲に惹かれるところ。

歌っているサム・ブラウンは昨年ジョージ・ハリスンの曲のカヴァーで紹介した英国のシンガー。ジョージ最後の曲が収められたジュールズ・ホランドのアルバムを買ったおかげで知ることができた。素敵な音楽とはどこで出会えるかわからない。

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