【旧稿再掲】パラリンピックの閉会式で始まりの終わりを迎えた「東京2020」

昨日、東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会が大会経費の総額が1兆4238億円になったこと、東京都と国による公費負担が当初の計画の約2倍となる総額7834億円に達したことが公表されました[1]。

大会組織員会は6月末に解散するものの、組織委の解散によって全てが終わりになるという考えが妥当ではないことは、私が『体育科教育』の連載「スポーツの今を知るために」の第152回「パラリンピックの閉会式で始まりの終わりを迎えた「東京2020」」で検討しています。

そこで、今回は以下に本文を一部加筆修正した内容を紹介し、今後の議論の手掛かりとしたいと思います。


パラリンピックの閉会式で始まりの終わりを迎えた「東京2020」
鈴村裕輔

パラリンピック東京大会の閉会式を経て、「東京2020」の全日程が終了しました。

オリンピックと同様に、パラリンピックも開催都市である東京都が新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令される中で実施されました。

いずれの大会も、新型コロナウイルス感染症の世界的な感染の拡大という未知の状況の中で開催されました。

選手や役員、大会関係者の行動範囲の制限や連日のPCR検査の実施、あるいは世界各地から派遣される報道陣の規模の縮小などは、これまでの大会では考えられなかった新しい措置です。

実際、オリンピックのある競技では、各国から参加した選手は全ての日程が終了するとただちに専用のバスに乗車して空港に向かい、帰国の途に就きました。

土産物を買い求める時間もない様子を見た日本代表選手団の役員の一人は「規則だから仕方がない」と同情しつつ、連日のように報道された大会関係者や報道陣の既定の区域外での活動に憤りを隠せませんでした。

もちろん、この出来事を大会全体に当てはめることは適切な態度ではないものの、今回の大会の持つ特殊な事情の一端を象徴する逸話といえることでしょう。

また、2021年9月には国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が会見を行い、「東京大会は成功した。オリンピックやパラリンピックの開催によって日本で新型コロナウイルス感染症の感染者数が増大したということはなかった」という趣旨の発言を行い、日本国内から疑問の声が上がったことは記憶に新しいところです。

ここで人々がバッハ氏の発言を顰蹙したのは、IOCの利益のみを優先し、開催都市である東京都の様子を顧慮しないかのような態度が主たる原因と言えるでしょう。

それとともに、「成功した」という評価が何に基づいているのかという基本的な点が曖昧なままであることも、オリンピックを鑑賞の対象としかとらえていない大多数の人々が共感しにくい理由の一つです。

そのため、今後のオリンピック及びパラリンピックだけでなく、その他の大規模な国際的な競技会を行うためにも何らかの新たな知見が得られたとすれば、今大会の意義は決して小さくないと言えるでしょう。

あるいは、今後、大会の運営を振り返り、評価すべき点と改善すべきであった点を検証することは、大会の開催費用が当初の想定よりも増加したことや大会組織員会内部の人事が迷走したことなども含め、大会が誰のためのものであるかという根本的な事柄を問うという点からも不可欠な取り組みとなります。

さらに、テレビ放映権が収入の大部分を占め、得られた資金を各国際競技連盟(IF)に配分することでIFを金銭的に統制するというIOCの既存の秩序が優先され、選手の利益の扱いが小さくなりやすい現在のオリンピックの仕組みなどは、これからの大会の行方を検討するという点で大きな意味を持ちます。

日本に限っても、スポーツ庁の創設と厚生労働省からの移管に伴い、パラリンピックが従来の福祉行政から競技性の重視に変化したことをどのように評価するかという点は、日本におけるパラリンピックのあり方そのものを考えるためにも重要です。

このように考えれば、「東京2020」は終わり、大会組織委員会も2022年6月を目途に解散されるとはいえ、検討すべき課題は決して少なくないことが分かります。

何より、予算は重視されても決算への関心の度合いが低いという日本の組織文化のあり方を念頭に置けば、当初の計画を大幅に超過した予算の問題もうやむやとなり、昔ばなしの一つで終わりかねません。

その意味で、パラリンピック東京大会の閉会式は「東京2020」の終わりを告げるものではありませんし、終わりの始まりでもありません。ようやく始まりの終わりを迎えたのです。


[1]東京五輪 公費膨張2倍に. 日本経済新聞, 2022年6月22日朝刊43面.
[2]鈴村裕輔, パラリンピックの閉会式で始まりの終わりを迎えた「東京2020」. 体育科教育, 2022年11月号, 65頁.

<Executive Summary>
The End of the Beginning of the Tokyo Olympics and Paralympics 2022 Has Just Begun after Dissolving the Organising Committee (Yusuke Suzumura)

The Organising Committee of the Tokyo Olympics and Paralympics 2022 will be dissolved in the end of June. In this occasion we examine that dissolving the Committee is not the end of the Tokyo Olympics and Paralympics 2022 but only just the end of the beginning of the Olympics and Paralympics.

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