「マイナ保険証」の導入の問題は何か

今日、河野太郎デジタル大臣が記者会見を行い、現行の健康保険証を2024年秋をめどに廃止し、いわゆるマイナンバーカードと一体化した保険証に切り替えることを表明しました[1]。

マイナンバーカードを社会のデジタル化の推進の中心と位置付けて来た岸田文雄政権にとって、カードそのものの交付率が今年9月末時点で49%に留まっている現状を改めるためにも、新しい保険証への切り替えを原則として義務化することは、マイナンバーカードの普及を促す重要な施策となります。

確かに、現在の構想に基づけば、利用者は新しい保険証によって個人専用ウェブサイトで診療履歴や投薬歴を確認することが可能になり、転職や転居による保険証の切り替えなども不要になるという点で、一定の利便性の向上を享受できると予想されます。

一方、例えば携帯電話機能だけに留まらず、オンラインバンキングや定期券など様々なアプリケーションを追加したスマートフォンを紛失すると、電話を利用できなくなるだけでなく導入している他の機能も停止し悪用を避けねばならないという点を考えるだけでも、マイナンバーカードの多機能化は紛失時の悪用という危険性をより高めることは容易に想定されます。

あるいは、紛失や盗難によってマイナンバーカードを失った際に再発行まで一定の時間を要するという現状に鑑みれば、この間の健康保険証機能を何によって代替するかという対応策を入念に措置しなければ、強制的に切り替えさせられる一人ひとりの利用者が無用な不便を被ることも明らかです。

また、未就学児における健康保険証やマイナンバーカードの取り扱いも、どのような形式で進めるかを入念に検討しなければ、保護者の負担が増すことになりかねません。

何より、依然として医療機関における新型保険証の受け入れ態勢が整っていない中での表明は、意欲的というよりは目的のためには手段を選ばない拙速的な政策の誹りを免れないものです。

もちろん、需要のない事項に価値を与え、実現させることは、政治の役目の一つです。

それでも、関係者には、「利便性を高めれば取得が促進される」といった謬見を改め、多機能化のもたらす弊害を直視する真摯な態度が求められるところです[2]。

[1]保険証、24年秋にマイナンバーカードと一体化 政府発表. 日本経済新聞, 2022年10月13日, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1304R0T11C22A0000000/ (2022年10月13日閲覧).
[2]鈴村裕輔, 「マイナンバーカードの多機能化」は利用者の期待に沿うか. 2020年12月14日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/c3c06fbcbf68165a57b62b9dea4e0ee0?frame_id=435622 (2022年10月13日閲覧).

<Executive Summary>
What Is a Problem of Integration of Health Insurance Card into Individual Number Card? (Yusuke Suzumura)

Today Digital Minister Taro Kono announces that Health Insurance Card will be integrated with Individual Number Card by Autumn 2024. On this occasion we examine a problem of this pollicy for our daily life.

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