「総裁選前解散」は菅義偉首相にとって好ましい戦略か

4月6日(火)、菅義偉首相が日本テレビの番組『深層NEWS』に出演し、衆議院の解散総選挙について9月の自民党総裁選挙前の解散もあり得ると発言し[1]、自民党内では菅首相の退陣を迫る「菅おろし」を牽制し、党内の引き締めを図ったとする見方が生じています[2]。

このような見立ては、菅首相の支持率が低下の傾向を示していることを考えると、妥当な判断のように思われます。

一方、1955年以来の自民党の歴史を振り返ると、不出馬を除き現職の総裁が立候補して落選したのは1978年の福田赳夫総裁のみであり、自民党の総裁選挙はきわめて現職に有利であるということが分かります。

また、発足当時に比べれば低下しているとはいえ、菅内閣への支持率は依然として40%程度を維持していることは、積極的であるか消極的であるかを問わず政権が有権者の支持を受けていることを示しています。

もし、菅内閣への支持率が森喜朗内閣の末期のように10%台となれば、自民党内で「菅おろし」の声が澎湃と起こるとしても不思議ではありません。特に内閣支持率の高い安倍晋三政権下で初当選し、選挙区での基盤の弱い議員が多い若手議員は「菅さんでは戦えない」と世論の人気の高い他の候補を新総裁として擁立することになるでしょう。

しかし、現時点で菅首相に代わって政権を担う意欲を持つ人物はいるかも知れないものの、知名度はあっても人気に欠けるか人気はあっても能力に疑問符が付くというように、現職の総裁を打倒できるだけの広範な支持を得る人物は見当たらないのが実情です。

このように考えれば、菅首相が「総裁選前の解散」に言及する理由は明らかで、自らの進退が取り沙汰される前に衆議院を解散することで党内が否が応でも菅首相の下で結束せざるを得ない状況を作り出すことが目指されています。

そして、実際に総裁選前に総選挙が行われた場合、現有議席を維持できないとしても自民党の単独過半数を確保すれば、今年9月の総裁選でも菅首相の再選となるでしょう。

二階俊博幹事長が、野党が内閣不信任案を提出した際には解散で応じると指摘したこと[3]も、実際には野党への対決の姿勢を示しただけでなく、党内の統制という目的を持っています。

それだけに、現時点で菅首相にとって、「総裁選前の解散」は総裁に再選されるためにも最も適切な戦略となるのです。

[1]総裁選前解散「あり得る」 首相. 読売新聞, 2021年4月7日朝刊2面.
[2]首相「解散」発言 波紋. 読売新聞, 2021年4月8日朝刊4面.
[3]不信任案提出 「直ちに解散」 二階氏. 読売新聞, 2021年4月5日朝刊4面.

<Executive Summary>
Will Prime Minister Yoshihide Suga Dissolve Parliament before LDP's Presidential Election? (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Yoshihide Suga mentions a possibility to dissolve parliament before LDP's Presidential Election on6th April 2021. In this occasion we examine an effectiveness of this strategy.

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