岸田文雄氏の党役員と閣僚の人事の目的は何か

本日、自民党は9月29日(水)の総裁選挙に勝利した岸田文雄総裁の下で党役員人事を正式に決定し、新たに甘利明氏が幹事長に就任したほか、福田達夫氏が総務会長、高市早苗氏が政務調査会長、遠藤利明氏が選挙対策委員長となりました[1]。

また、10月4日(月)に岸田総裁が首班に指名される運びの新内閣については、官房長官に松野博一氏が、財務大臣に鈴木俊一氏が内定しています[2]。

甘利氏は総裁選で一貫して岸田氏を支援しており岸田氏の選挙対策本部顧問を務めていました。また、遠藤氏は岸田氏の選対本部長、鈴木氏は岸田氏の推薦人代表であり、高市氏は総裁選の第1回投票で3位となったものの、決選投票では事前に岸田氏と取り交わした協力の合意を遵守し岸田氏の当選に寄与しています。

さらに、福田氏は衆議院の当選3回以下の議員で作る東風一新の会の代表世話人として、総裁選での論戦の活性化を進めました[3]。

このように考えると、党運営の中心をになる党四役と政権の要となる官房長官や財務相は、総裁選の論功行賞的人事であることが分かります。

特に注目すべきは松野氏の官房長官への起用です。すなわち、自派ないし自らと近しい間柄の議員を据えるのが通例であるにもかかわらず、細田派の松野氏が就任することは、同派の中で大きな影響力を持ち、高市氏と岸田氏を直接的、間接的に支援した安倍晋三前首相への配慮の結果であると推察されます。

ここで思い出されるのが1982年の自民党総裁選挙で、田中派の全面的支援を得た中曽根康弘氏が、当初は「日大人脈を使って優勢」と伝えられた河本敏夫氏らを破った結果、官房長官として同派の後藤田正晴氏を起用した事例です。

中曽根派ではなく田中派から官房長官を迎えたことは、田中角栄氏の支援に対する直接的な返礼でした。この故事を参照すると、細田派の松野氏の起用の持つ意味は自ずから明らかになると言えるでしょう。

その一方で、甘利氏、鈴木氏が麻生派であること、さらに党副総裁に麻生太郎氏を起用することの意味も小さくありません。

派閥の系譜を辿ると宏池会に遡る麻生派の議員の重用は、宏池会の会長でもある岸田氏にとってみれば、一面では念願とも言える「大宏池会」の結成への布石でもあり、他面では「大宏池会」は難しいとしても宏池会に関連する勢力の大同団結を進めるという目的を達成するための手段でもあります。

その意味で、岸田氏は論功行賞と宏池会勢力の結集という二つの目的を同時に達成するべく、人事を行っていることが示唆されます。

もとより、いずれも一人ひとりの国民にとっては関係のない話題だけに、どのような基準による人選であるとしても、適材適所の人事が望まれるということに変わりはないとしても、岸田氏の打算と理想の一端が窺われるという点も、見逃せないと言えるでしょう。

[1]自民党の新執行部が発足. 朝日新聞, 2021年10月1日, https://www.asahi.com/articles/ASPB16CYKPB1UTFK00V.html (2021年10月1日閲覧).
[2]財務相 鈴木氏起用へ. 日本経済新聞, 2021年10月1日夕刊1面.
[3]甘利幹事長 高市政調会長. 日本経済新聞, 2021年10月1日朝刊1面.
[4]勝敗決した2日前の会談. 日本経済新聞, 2021年9月30日朝刊3面.

<Executive Summary>
What Is an Aim of Mr. Fumio Kishida and His Plan of the Appointment of the LDP Officers and the Cabinet Members? (Yusuke Suzumura)

LDP President and Next Prime Minister Fumio Kishida is arranging the appointment of the LDP Officers and the Cabinet Members. In this occasion we examine his aim and plan about these appointments.

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