検討委員会が「森喜朗会長の後任候補」の選考に際して注意すべき点は何か

昨日から、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(TOCOG)に設置された候補者検討委員会の会合が開かれ、辞意を表明した森喜朗会長の後任の人選を進めています[1]。

選考に際しては「透明性の確保」が強調されるものの、検討委員会の顔触れや具体的な発言が非公開という点は、TOCOGにおける「透明性」が何を意味するのか、疑問が残ります。

もちろん、事前に委員が公表されれば、報道陣が過剰な取材を行ったり、TOCOG以外の勢力から陳情が行われたり、あるいは人選について何らかの圧力が加えられることも考えられます。

その意味で、外部の影響を受けずに独自の判断に従って選考するためには、委員名の非公開という措置にも一定の合理性はあります。

また、議論の内容についても、一定の期間をおいて後日議事録が公表されるなどの対策が講じられるのであれば、いかなる経緯や手順によって選考されたかが確認できます。そのため、必ずしも即時の情報の公開に拘泥する必要はないかも知れません。

その一方で、委員名が非公開とされながら組織委関係者からの情報という形で報道機関に氏名が伝えられ、しかも各社の報道の内容が一致していることを考えれば、委員の顔触れを非公開とする措置は厳密なものではなく、実際には独立した議論を行うという体裁を整えるだけの便宜的な対応に過ぎないことが分かります。

さらに、発言の内容についてもいずれかの時点で公表されることが確約されていないため、例えば「委員が検討した結果候補者を選考した」という概要のみが伝えられ、詳細な意見は未公表のままとされることも予想されます。

もとより、TOCOGは民間の一団体です。そのため、公的機関のように厳密な情報公開の責務を負うわけではありません。あるいは、選考委員と推定されている理事ら関係者も、より主体的な情報公開を前提とすることを想定せずに委員に就任しているかも知れません。

それでも、「透明性の確保」を強調する以上、「透明性とは何か」、「透明性の確保は何によって実現するのか」という点が注目されるのは当然のことです。そして、取り組みに疑念が向けられることそのものが「透明性」を損なうという点には注意が必要です。

何より、非公表でなければ自らの所信に基づいた議論が出来ないと考えられているのであれば、そのような理解は検討委員一人ひとりの自主的に判断する能力を軽んじるものにほかなりません。

それだけに、検討委員会、さらにTOCOGには、「透明性」とは何か、検討委の顔触れや発言の内容を非公表とする理由が何であるかを具体的に説明することが求められるとともに、検証可能な議論と決定の妥当性の保証のために必要であると理解することが重要と言えるでしょう。

[1]五輪組織委新会長の資質議論. 日本経済新聞, 2021年2月17日朝刊3面.

<Executive Summary>
What Is an Important Role of the Tokyo Olympic Panel to Examine the Successor to President Yoshiro Mori? (Yusuke Suzumura)

The TOCOG Panel holds the First Meeting to pick President Yoshiro Mori successor on 16th February 2021. In this occasion we examine an important role of the panel to examine candidates.

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