「岸田首相による定額減税実施の指示」はどのような意味を持つか

昨日、岸田文雄首相は政府与党政策懇談会において2024年6月に所得税と住民税の定額減税を実施することを表明するとともに、自民党及び公明党の幹部に減税を含む家系支援の具体策を今年末までに決定するよう指示しました[1]。

岸田首相が示した方針では、所得税を1人当たり3万円、住民税を1万円減らし、減税対象とならない住民税非課税世帯には1世帯当たり7万円を給付するとともに、所得税が非課税の子育て世代には追加の支援する計画です[1]。

さらに、拡充を予定する児童手当の支給の時期を当初予定されていた2025年2月から2024年12月に前倒しすることも表明されました[2]。

こうした政策は、もちろん岸田首相の唱える「異次元の少子化対策」の一環であり、その意味で自ら主張した政権の主要政策を実現しようとする取り組みの表れと言えます。

それとともに、「税収増を納税者にわかりやすく税の形で直接還元する」[1]という岸田首相の指摘は、税収が2022年度まで3年度連続で過去最高額を更新したことを考えれば妥当なように思われるものの、2020年度には新型コロナウイルス感染症対策などのために100兆円を超える国債を発行するなど、依然として国家予算における支出を賄うために国債に頼る構造が克服されていないことも事実です。

しかも、支出削減のための冗費冗官の整頓や行政改革などについては、少なくとも岸田首相をはじめ、政権の幹部が明確に主張してはいません。

このような状況を考えれば、岸田首相の真の意図がどこにあるかにかかわらず、来るべき総選挙に向けて有権者の歓心を買おうとするかのような政策であると批判されても仕方のないところです。

何より、岸田首相が会長を務め、自らもその一員であることを誇りとする宏池会を創設した池田勇人が『均衡財政』(実業之日本社、1952年)を上梓し、財政の均衡こそが健全な国家の発展に資することを主張した故事を踏まえれば、どれほど岸田首相が経済性政策に通暁していないとしても、その主張が派の伝統にそぐわないであろうことは容易に想像されます。

それだけに、今回の措置は、いつまで続けられるかも含めて、その行方が注目されるところです。

[1]定額減税、来年6月. 日本経済新聞, 2023年10月27日朝刊1面.
[2]児童手当の拡充来年末に前倒し. 日本経済新聞, 2023年10月27日3面.

<Executive Summary>
Is a Tax Cut by the Kishida Cabinet a Dispensing Favours to Win the Election? (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Fumio Kishida ordered to cut the Income Tax and the Resident Tax for exectuives of the Liberal Democratic Party and the Komeito on 26th October 2023. On this occasion, we examine the meaning of the tax cut and its aim by Prime Minister Kishida and his close associates.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?