『NHKスペシャル』の特集「エリザベス女王」について思ったいくつかのこと

昨夜のNHK総合の番組『NHKスペシャル』は、「エリザベス女王~光と影 元側近が語る外交秘話~」は、今年9月8日に崩御した英国王エリザベス2世陛下の70年にわたる治世が取り上げられました。

皇太子時代のチャールズ3世陛下の夫人であったダイアナ妃が離婚後に事故死した際の英国王室の対応と国民の反響や、その後の王室による積極的な情報発信などが取り上げられるとともに、番組の中心に据えられたのは、エリザベス2世陛下が各国の元首や首脳との間で行った、いわゆる王室外交でした。

今回の放送では、元側近の証言と関係者の手記などの資料、さらに様々な映像を活用することで、外交の実務を担う政府関係者ではなし得ない、しかも政治に直接携わらない立憲君主だからこそ実現できる、当事者間の衝突やわだかまりを和らげる王室外交の役割りが活き活きと描かれました。

もちろん、こうした王室外交が効果を発揮するためにはエリザベス2世陛下の不断の努力が必要でしたし、アイルランド問題や南アフリカ問題に対する取り組みを通して明らかになったのは、その生涯を国に捧げることを誓った陛下の存在の大きさと孤独でした。

特に今回重要であったのは君主の孤独という点で、1975年に国賓として来日した際に外務省儀典長として同席した内田宏の手記「エリザベス女王陛下訪日記」を引用する形で、英国において日本に対する悪感情が残る中で日本を訪問するという決断の難しさや、英国の立憲君主制度に多くのことを学び、戦前からよりよい立憲君主であろうとした昭和天皇の存在がエリザベス2世陛下にとって重要であったことが紹介されたのは、君主のあり方を考える上でも示唆に富むものでした。

また、今年9月19日の国葬に始まり国葬に終わるという番組の構成は定型的ながら、最後に「いかなる困難に直面してもわれわれは乗り越えてきた。これからもわれわれは共にあることを忘れないで」という趣旨の2014年の演説が引用されたのは、大変感慨深いものでした。

50分という限られた枠の中でエリザベス2世陛下の事績を体系的に紹介し、しかもその意義をあますところなく示したところに、NHKのドキュメンタリー番組を代表する『NHKスペシャル』の力量がよく発揮されたと言えるでしょう。

大変に見応えのある、今回の放送でした。

<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions for the NHK Special's Featured Story "Queen Elizabeth II" (Yusuke Suzumura)

The NHK Special of the NHK General TV broadcasted a featured story named "Queen Elizabeth II" on 25th December 2022. On this occasion I express miscellaneous impressions of the programme.

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