「東京アラートの廃止」と「新指標の導入」は何を意味するか

昨日、東京都は第31回東京都新型コロナウイルス感染症対策本部会議を開催し[1]、新たに「感染状況」と「医療提供体制」に着目した7項目で新型コロナウイルス感染症の感染の拡大を監視すると発表しました[2]。

今回、新たに制定されたモニタリング項目は以下の通りです[2]。

(1)新規陽性者数
(2)東京消防庁救急相談センターへの発熱相談件数
(3)感染経路不明者の数と増加比
(4)PCR・抗原検査の陽性率
(5)救急搬送先が20分以上決まらなかった件数
(6)入院患者数
(7)症患者数

東京都は上記の7項目について、週1回程度専門家に分析させ、都のモニタリング会議で現状を評価し、「不要不急の外出自粛」の呼び掛けなどをする計画です[2]。

一方、新型コロナウイルス感染症への対策として東京都が独自に作成した警報情報である「東京アラート」については、東京湾にかかる東京港連絡橋、いわゆるレインボーブリッジを赤く点灯させるなどして警戒を呼び掛けていたものの、都の関係者によれば「インパクトが強く、再度の休業要請と勘違いした事業者もいた」とされています[3]。

「再度の休業要請と勘違いした事業者もいた」という点については、「インパクト」の強弱ではなく、東京都側の情報の発信の方法が十分ではない、あるいは不適切であったという可能性を推察させます。

また、「東京アラート」については、「新規陽性者数」、「新規陽性者における接触歴等不明率」、「週単位の陽性者増加比」の3項目を挙げて緩和及び再要請の目安となる数値を明記し[4]、6月29日の時点で1週間の平均感染者数が事業者への休業を再要請する目安となる50人を超えていたにもかかわらず具体的な措置が取られないなど、名存実亡の観を呈していました。

もちろん、休業に協力した事業者への給付金などに関する都の財源は、9000億円から500億円以下に減少しているとされ[5]、再度の休業要請を行った場合に金銭的な対応を行う余地が乏しいことは明らかです。

あるいは、7月5日(日)に投開票が行われる都知事選挙を考えれば、休業の再要請や都立学校の再閉鎖などを行うことは都の従来の対応が失敗したことを意味し、現職として立候補している小池百合子都知事の再選を危うくするかもしれません。

さらに、経済活動と感染の拡大の予防とを両立させるためには、所期の数値を厳守するだけでは必ずしも適切ではなく、状況に応じた柔軟な態度も必要となると言えるでしょう。

このように考えれば、「新規陽性者数」、「新規陽性者における接触歴等不明率」、「週単位の陽性者増加比」の3項目について目安となる数値を明記した「東京アラート」に比べ、新しい指標では感染状況に関する第1項から第3項、あるいは医療体制に関する第4項から第7項まで、具体的な数値が示されているのが第4項のみであることは、モニタリング会議の裁量の余地を大きくしていることが分かります。

しかし、「適切なモニタリング等を通じて、慎重にステップを踏み、都民生活や経済社会活動との両立を図る」、あるいは「状況の変化を的確に把握し、必要な場合には「東京アラート」を発動する」としながら[4]、1400万人の都民の福祉よりも個利個略が優先されているなら、どうなるでしょうか。

そのような不適切な判断を行う為政者がその地位を保つことは難しくならざるを得ません。

それだけに、小池都知事や他の東京都の関係者は、自ら定めた新たな指標に忠実であるばかりでなく、絶えず都民の利益を優先することに最善を尽くすことが求められるのです。

[1](第533報)第31回東京都新型コロナウイルス感染症対策本部会議の開催について(令和2年6月30日開催). 東京都, 2020年6月30日, https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/saigai/1007261/1009640.html (2020年7月1日閲覧).
[2]都、警戒呼びかけ数値目安設けず 7項目のモニタリング<新型コロナ>. 東京新聞, 2020年7月1日, https://www.tokyo-np.co.jp/article/38990?rct=national (2020年7月1日閲覧).
[3]都、新たな監視項目公表へ. 日本経済新聞, 2020年6月30日夕刊9面.
[4]新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ. 東京都, 2020年5月22日, https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2020/05/22/documents/11_00_1.pdf (2020年7月1日閲覧).
[5]第2波、病床備えに不安. 日本経済新聞, 2020年6月30日朝刊3面.

<Executive Summary>
What Is a Meaning of a Failure of the "Tokyo Alert"? (Yusuke Suzumura)

The Tokyo Metropolitan Government decided to abolish the "Tokyo Alert" and the new indexes for monitoring the COVID-19 on 30th June 2020. It implies that the "Tokyo Alert" was a failed measure, since they gave priority not to the public interests but their own interest.

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