「森氏の不適切発言問題」で主体性を発揮できない東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会

本日、森喜朗氏が東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長を辞任する意向を示したことが明らかになりました[1]。

森氏が辞任の意向を示したのは、2月3日(水)に日本オリンピック委員会の臨時評議員会において女性蔑視と受け取られる発言を行い、国内外から批判を受けたためです。

これは、一面において森氏が「軽率な発言」の責任を取るように見えながら、他面においては理事の人事権を持つ評議員会の先手を打つことで、更迭という不名誉を回避する措置であることを意味します。

森喜朗氏は辞任に際して「私の発言が誤解を招き、迷惑をかけた」という一般的な理由を挙げるだけで、自らの発言そのものについては「すでに撤回している」として内容の是非ついては明言を避け、公式的には一身上の都合での任期途中の退任として処理されるものと推察されます。

そのため、森氏の発言については「辞任したことで終わり」とされ、組織委員会が「森発言」の是非を判断する機会が失われることになりかねません。

この場合、組織委員会がもし組織として「森発言」を不適切と判断するのであれば、2月7日の声明[2]に加えて、改めて「森発言」を否定する声明を新たに公表する必要があります。

もし新たな声明がなければ、「組織委も本当は森発言を問題とは思っていないのではないか」という観測を否定することはできません。

また、後任の会長の職を川渕三郎氏が受諾する意向であることについては[4]、森氏を会長に起用する際に「スポーツ界や財界などあらゆるレベルで(国内外で)一番ネットワークを持って」[3]いる点が強調されたことを考えると、知名度はあっても力不足の感は否めません。

むしろ、組織委員会が国内外の批判、特に日本国内での非難の声を鎮静化させるため、能力よりも印象によって川渕氏を森氏を後任に据えようと考えていることを示唆します。

それだけに、今回の「森発言問題」において、組織委員会は一貫して主体的な行動をとらず、状況の変化に対応しきれないまま森喜朗氏の辞任によって事態の幕切れを図ろうとしているかのようであり、組織の統治能力に疑念が抱かれかねません。

その意味で、今年7月の東京オリンピックの開催に向けて、組織委員会は自らの中に統治能力の欠如という新しい問題を抱え込んだと言えるでしょう。

[1]森会長辞意 菅政権、危機意識薄く対応後手. 日本経済新聞, 2021年2月11日, https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE107G50Q1A210C2000000/ (2021年2月11日閲覧).
[2]東京2020大会と男女共同参画(ジェンダーの平等)について. 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会, 2021年2月7日, https://tokyo2020.org/ja/news/news-20210207-01-ja (2021年2月11日閲覧).
[3]組織委会長に森氏. 日本経済新聞, 2014年1月13日朝刊1面.
[4]森喜朗会長の後任、川淵三郎氏が受諾の意向 五輪組織委. 日本経済新聞, 2021年2月11日, https://www.nikkei.com/article/DGXZQODG042Q10U1A200C2000000/ (2021年2月11日閲覧).

<Executive Summary>
Where Is TOCOG's Autonomy for the "Mori Issue"? (Yusuke Suzumura)

Tokyo Olympic and Paralympic Games Organising Committee President Yoshiro Mori will leave the position on 12th February 2021. In this occasion the TOCOG shall show autonomy of the organsation for the problem, since their attitude seems to be other organisation's problem.

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