「ブルーインパルスの展示飛行」の持つ意味は何か

本日、航空自衛隊第4航空団飛行群第11飛行隊、通称ブルーインパルス[1]が、新型コロナウイルス感染症に対応する医療従事者などに、感謝と敬意を示すためとして東京都心の上空を飛行しました[2]。

戦闘機の展示飛行による医療従事者などへの謝意の表明は米国で行われるなど、先例のあるものです[3]。

また、新型コロナウイルス感染症に対応する医療従事者などに謝意や敬意を表することが重要であるという点には、異論の余地は乏しいと言えます。

あるいは、今年7月24日(金、祝)に行われる予定であった東京オリンピックの開会式での曲芸飛行隊が延期されたことで、操縦士の技能の維持のためにも、定期的な展示飛行の実施は必要と言えるでしょう。

その一方で、謝意や敬意の表明の方法として、曲芸飛行隊による展示飛行が適切な方法であるかは定かではありませんし、緊急事態宣言は解除されたものの依然として全国で感染者が確認される中でこうした展示飛行を行うことは、人々に事態は終息したという誤った印象を与えかねないものです。

さらに、事前に展示飛行を知らなければ都心部の住民にとっては「いつもより大きな音で飛行機が飛んでいる」という程度の理解に留まるでしょうし、感謝と敬意を示す対象である医療従事者の一部しか飛行を目にすることが出来なかったのなら、企画の意義も損なわれることになります。

これに加えて、「新型コロナウイルス問題」で日々職務に励む医療従事者は全国にいるばかりでなく、他の業種、業態においても、各人がそれぞれの務めに従って困難な状況に対処していることは明らかです。

その意味で、当局には「ブルーインパルスの曲芸飛行」といった象徴的な企画で満足するのではなく、「医療従事者をはじめ、新型コロナウイルス感染症への対応に全力を尽くして下さっている皆様」への「敬意と感謝の気持ち」[4]を表明するという素志に従い、今後も事態の改善に向けた実効的な取り組みを一層促進させることが求められます。

それとともに、今回の一件についてたとえ賛否の声が上がるとも、相互にそれぞれの立場を尊重しつつ真摯に意見を交換する「自由討議の精神」[5]が発揮されることが望まれるところです。

[1]ブルーインパルスとは. 航空自衛隊, 公開日未詳, https://www.mod.go.jp/asdf/pr_report/blueimpulse/about/ (2020年5月29日閲覧).
[2]ブルーインパルスが都心上空を飛行 医療従事者などに感謝の意. NHK NEWS, 2020年5月29日, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200529/k10012450181000.html (2020年5月29日閲覧).
[3]ブルーインパルス、都心ど真ん中を初飛行 医療に感謝. 朝日新聞DIGITAL, https://digital.asahi.com/articles/ASN5Y4GDTN5XUTIL03Z.html?pn=4 (2020年5月29日閲覧).
[4]首相官邸. "【SNS更新】「医療従事者をはじめ、新型コロナウイルス感染症への対応に全力を尽くして下さっている皆様に、敬意と感謝の気持ちを込めて、明日、航空自衛隊のブルーインパルスが、東京都上空を飛行します。」総理メッセージの続きは
https://facebook.com/sourikantei/photos/a.1346779385421817/2533567686742975/?type=3&theater https://instagram.com/p/CAunfByA-Rv/". 2020年5月28日22時36分, https://twitter.com/kantei/status/1266000428652572672 (2020年5月29日閲覧).
[5]鈴村裕輔, 改めて考える石橋湛山の「自由討議の精神」の現在的な意味. 2020年5月13日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/2ab3ca1ee2031766ac9c1203525d0101?frame_id=435622 (2020年5月29日閲覧).

<Executive Summary>
What Is a Meaning of an Exhibition Flight by Blue Impulse? (Yusuke Suzumura)


The Japanese Air Force's Blue Impulse held an exhibition flight for the people who are serving and conflicting against the COVID-19 on 29th May 2020. On this occasion we examine a meaning of the flight.

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