「菅首相のかみ合わない質疑」は何を意味するか

5月10日(月)に衆参両院の予算委員会で行われた質疑では、菅義偉首相の答弁が質問に答えていない、あるいは同じ答弁を繰り返しているなど、問題視されました[1]。

特に、新型コロナウイルス感染症の感染が拡大する場合などに東京オリンピック・パラリンピックの開催が可能か否かを問う野党議員に対して「国民の命と健康を守っていく」と繰り返したことについては、「五輪については、後ろ向きな内容でもなく、必ずやるとも言いきらない。後から言い訳できる答弁にしている」という指摘もあります[2]。

確かに、「コロナの感染状況がステージ4やステージ3のときでもオリパラを開催するのか」という問いに対しては、「開催する」、「開催しない」、「分からない」が主な答えとなることが予想されます。

それだけに、「選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じて、安心のうえ参加できるようにするとともに、国民の命と健康を守っていく」という菅首相の答弁は開催の可否に直接答えていないことが分かります。

一方で、東京都が国際オリンピック委員会(IOC)と締結した開催都市契約には第66条には、大会の中止の決定権はIOCに帰属する旨が明記されていますから[3]、菅首相が自らの意志で決定できない事項に対して明確な回答を避けることもある意味で適切な対応となります。

何故なら、本心では大会の延期や中止を希望しているとしてもIOCの同意が得られなければ実施する以外の選択肢はないのですから、開催のための準備を行うことが唯一の回答とならざるを得ないからです。

そして、もし菅首相が自ら決定権を持たたない事項に対して踏み込んだ発言を行えば、そのような態度こそが不誠実の誹りを免れないでしょう。

従って、オリンピックの開催を巡る構造を踏まえるなら、むしろ野党側は「ステージ4やステージ3の状況が続くようならIOCに大会の中止や延期を提起するのか」、「IOCとはどのような条件であれば開催し、いかなる状況であれば中止するといった協議は具体的に行っているのか」と問うことが適切であったと言えます。

答えが不適切である場合、回答する者の能力に問題があるか問う者の能力に問題があるか、その両方であるかのいずれかになります。

それだけに、今回の「かみ合わない質疑」は、必ずしも菅首相の責任ばかりではないと言えるのです。

[1]首相 五輪改めて意欲. 毎日新聞, 2021年5月11日朝刊2面.
[2]首相 かみ合わぬ質疑. 朝日新聞, 2021年5月12日朝刊4面.
[3]HOST CITY CONTRACT Games of the XXXII Olympiad in 2020. Article 66.

<Executive Summary>
Who Was Guilty for a Gap in the Conversation in the Both Diets? (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Yoshihide Suga was blamed by the reason of a gap in the conversation in the both Diets. In this occasion we examine a person who was guilty for such a conversation.

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