「東京オリパラ組織委に関する監査報告書」はいかなる意味を持つか

昨日、東京都監査委員は東京オリンピック・パラリンピックに関する事業に関する監査報告書を公表し、東京大会のスポンサー契約を巡る汚職事件やテスト大会の入札にかかわる談合事件が起こったことをあげ「ガバナンスの在り方に大きな課題を残した」と指摘しました[1]。

2021年に実施された東京五輪・パラリンピックの開催都市である東京都の監査委員が大会の運営に問題があったと明記した報告書を公表したことは、汚職事件や談合事件が発生したという事実に照らして、適切であったと言えるでしょう。

また、談合事件に関し、事業者に対して排除措置命令などが確定した場合、公費が充当された契約については都として損害賠償金額部分の公費返還措置等の対応を検討していく必要があることを指摘したり[2]、入札に関して可能な限り情報を公表して透明性の確保が必要であるとしたこと[3]も、事案の重要さに鑑みて、妥当な対応であることが分かります。

その一方で、今回の事件について、東京都から出向した幹部職員についてはコンプライアンス研修を行っていたものの、組織委員会の役員については一般財団法人法などが役員特有のコンプライアンスに関する規定があるため特段の措置が取られておらず、実際に研修がなされていれば汚職などを間接的に避けられた可能性があるとしたこと[4]は、元幹部職員が事件に関与していたという点からも説得力を欠くと言わざるを得ません。

これは、適切な研修を行えば最悪の事態は避けられるという一種の性善説に基づく見方であり、どのような対策を施しても悪事をなす者はあらゆる障壁を乗り越えるという性悪説によるならば、全く説得力をもちません。

もちろん、監査報告書は組織委員会が適切に活動していたか、あるいは都から拠出された公費が適正に執行されていたかを監査することが目的であって、具体的な対応策を考えるのは監査報告書を受理した東京都であり、日本オリンピック委員会や日本スポーツ協会、あるいは文部科学省など、大会組織委員会にかかわる諸機関・団体であることは論を俟ちません。

従って、重要なのは監査報告書で指摘された事項に対して、相応の責任を有する当事者がいかなる対策を講じるかであり、その対策がいかなる観点に基づき、どのような効果が期待されるかを検証可能な形で公表し、実行することです。

日本の官公庁においては、しばしば予算案は重視されるものの決算案は等閑視されるものです。そして、このような態度は、官公庁の関連団体や外郭団体にも見受けられる傾向です。

しかも大会組織員会は昨年6月に、清算法人も今年3月に解散しており、今回の監査報告書は、もはや実体のない組織の過去の不適切な行為を東京都に伝えるという意味以上の価値を持たないものになりかねません。

それだけに、重要なのは監査報告書の提出をもって終わりとするのではなく、その中で指摘された事項をどのように今後の類似する組織の運営に反映させるかという点であり、関係者の不断の努力が求められると言えるでしょう。

[1]五輪「ガバナンス 課題残す」. 日本経済新聞, 2023年6月7日朝刊38面.
[2]財政援助団体等監査報告書(公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会). 東京都監査委員, 2023年6月6日, 23頁, https://www.kansa.metro.tokyo.lg.jp/PDF/03zaien/R5zaien/soshikiiinnkai.pdf (2023年6月7日閲覧).
[3]同, 44頁.
[4]同, 43頁.

<Executive Summary>
What Is a Meaning of the Tokyo Auditors' Report about the Organisers of the Tokyo Olympic and Paralympic Games 2020? (Yusuke Suzumura)

The Tokyo Auditors submitted the report about the Organisers of the Tokyo Olympic and Paralympic Games 2020 on 6th June 2023. On this occasion, we examine the meaning of the report for the future of similar organisations.

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