「スポーツにおける人種差別問題」で思い出される「2005年のマイナー・リーグでのある光景」

ミネアポリスの警察官によるジョージ・フロイドさんの暴行死を受けて米国の各地で起きた抗議運動と、米国における「黒人差別」の根深さの一端については、すでに本欄の検討した通りです[1]。

そこで、今回は、米国における「黒人差別」の問題は、黒人だけの問題にとどまらず、むしろヒスパニック系やアジア系をも含む「人種問題」の一つの表れであることを考えてみたいと思います。

その際に具体的な事例として採り上げるのが「スポーツにおける人種差別問題」であり、具体的には米国のプロ野球であるマイナー・リーグで私自身が体験した出来事です。

2005年に米国西部のあるマイナー・リーグ球団で調査を行ったところ、クラブハウスで次のような光景を目にしました。

すなわち、コンクリートがむき出しの室内には、左右に分かれてテーブルが2卓置かれていました。

一方のテーブルには白人の選手たちが、他方のテーブルにはアフリカ系やヒスパニック系の選手たちが椅子に座り、昼食をとっていました。これらの中には、前年に主力として大リーグで活躍していた選手や、先月まで大リーグ球団の正選手であった者なども含まれていました。

私がクラブハウスに入ると、入り口の付近に座っていた、昨年まで大リーグ球団に所属していた白人の選手が「おい、お前の友達が来たぞ」ともう一方のテーブルの方に声をかけました。

そして、テーブルにいた選手たちの中から顔を上げたのは、ある日本人選手でした。

この時、少なくともこの球団のクラブハウスの中では「白人選手」と「それ以外の選手」が明確に区分けされ、それぞれテーブルを共にすることもないのだということが了解されました。

もちろん、私は、わずかな事例をもって普遍的な現象とするものではありませんし、15年前の事例だけに状況は自ずから現在と異なるものでしょう。

それでも、2005年当時に目に見える形で乗り越えられたとされている「人種の壁」が厳然として存在していたこと、さらに白人選手たちがカップヌードルを食べ、アフリカ系やヒスパニック系の選手たちがトルティーヤやハンバーガーを口にしていたことは、大変に印象的なものではありました。

日本においては米国の抗議運動は「他国の出来事」に他ならないかも知れません。

しかし、われわれに馴染みのあるスポーツの中でも、「人種差別」は実際に目にすることが出来る問題であるという点には、注意が必要であろうと思われるところです。

[1]鈴村裕輔, 「ジョージ・フロイド氏の死」が示す米国における「人種差別問題」の根深さ. 2020年6月5日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/5c74ef77c80fada5dcf2e54c003a1abe?frame_id=435622 (2020年6月11日閲覧).

<Executive Summary>
An Example of a Segregation Problem in the USA: In the Case of the Minor League Baseball (Yusuke Suzumura)

After the death of Mr. George Floyd of 25th May 2020, the protest movement occures in the USA. In this occasion we examine an example of a segregatoin problem focusing on the Minior League Baseball based on an episode in the year of 2005.

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