『鬼滅の刃』の連載終了1年後に思ったいくつかのこと

去る5月18日(火)、昨年5月18日に発売された『週刊少年ジャンプ』の2020年第24号で吾峠呼世晴さんの漫画『鬼滅の刃』の連載が終了してから満1年が経ちました。

連載終了後も『鬼滅の刃』の人気が衰えることはなく、むしろ映画『鬼滅の刃 無限列車編』が日本の映画史上最高の興行成績を記録し、外国でもテレビアニメや映画が紹介されるなど、注目の度合いは高まるばかりです。

いずれはこうした人気も一段落するであろうものの、幅広い層から支持されている現在の状況は、『鬼滅の刃』の持つ、明朗な構成の背後に張り巡らされた設定の緻密さが読者の多様な理解を許していることを推察させます。

ところで、『鬼滅の刃』で印象的な場面の一つとして思い浮かぶのが、鬼舞辻無惨が竈門炭治郎に自らの意志を引き継がせ、「鬼の王」にしようとするものの、失敗する場面です。

ここで、鬼舞辻無惨は竈門炭治郎を心理的に揺さぶることで「鬼の王」となるよう仕向けます。

しかし、最終的に竈門炭治郎は仲間たちの許に戻り、鬼舞辻無惨は「炭治郎行くな!!私を置いて行くなアアアア!!」と絶叫しつつ最期を迎えます。

鬼舞辻無惨を振り切り、これまでの戦いで斃れた仲間たちに導かれるように現実の世界に戻る竈門炭治郎の様子は象徴的であり、視覚的な効果の強い、本作でも指折りの場面と言えるでしょう。

それとともに、「私を置いて行くな」と断末魔の叫びを残す鬼舞辻無惨の姿は、鹿ケ谷の陰謀により鬼界ヶ島に配流された俊寛が、赦免状に自らの名前がないことに絶望し、遠ざかる船影に向かい泣き喚き続ける能『俊寛』の最後の場面を連想させます。

もとより鬼舞辻無惨と俊寛とは置かれた状況も与えられる役割も異なります。

それでも、一方が鬼の始祖であり、他方が鬼界ヶ島に流されたことを重ね合わせると、「無惨の最期」における絶叫は俊寛の叫喚の変奏ではないかという理解を許すものです。

その意味でも、『鬼滅の刃』は連載を終えた今も、われわれ読者にとって新しい作品であると言えるかも知れません。

<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of "Kimetsu no Yaiba" (2) (Yusuke Suzumura)

A manga Kimetsu no Yaiba (literally "Blade of Demon Destruction") written and illustrated by Koyoharu Gotoge run in The Weekly Shonen Jump ended on 18th May 2020. On this occasion we examine a relationship between Kibutsuji Muzan and Shunkan, the former is the First Demon and the latter is the person who was exiled Kikaiga Shima, Island of Demon.

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