【書評】君塚直隆『王室外交物語』(光文社、2021年)

去る3月17日、君塚直隆先生のご新著『王室外交物語』(光文社、2021年)が刊行されました。

「人類にとって外交とはそもそも王様同士の付き合いから始まったものではないか」という視点に基づく本書は、紀元前14世紀の古代中東から現在の王室外交のあり方までを通覧します。

当事者が対等な関係に基づいて相互に対等性を認めることが外交の第一歩であり、大国が周辺国を従える状況では外交は生まれないという指摘(本書26-27頁)は、本書の根幹をなす考えです。

この考えが説得的であることは、対等な存在としての「外国」を認めず、他国は朝貢国でなければ属国であると考えた中国の歴代王朝において外交を専門に担当する部局(外務部)が1901年まで設けられなかった例を思い浮かべるだけで十分でしょう。

また、時に呼称の違いが関係者の力関係を反映し、ローマ教皇庁における序列が各国の格を示し、他国よりもより高い位置を求めてときにいさかいが生じる様子(本書88-91、123-127頁)などは、外交が古代から近代へと至る過程でどのように変化したかを象徴的に示します。

それとともに、各国を代表する大使の役割が「知り、聞き、報告する」から「勤勉に聞き、助言する」、「機敏に行動しながら交渉する」、「無駄な点は省いて必要なことのみを自身の見解を交えながら報告する」と、15世紀から16世紀にかけて変質したことも、外交の成熟を感じさせるものです。

18世紀に至り「同質性、貴族性、自立性」を備えた外交官(本書135頁)が外交を担う一方で、1914年に始まった第一次世界大戦の終結が各国の政体に変革をもたらし、欧州各国で王政が廃され「宮廷外交」も終わりを告げたこと(本書145-150頁)も、外交が政治の一部であるという事実を改めてわれわれに教えます。

ところで、君塚先生の主たる研究対象である英国王室、特にエリザベス2世を取り上げ現代の王室外交を論じる第4章は、20世紀半ば以降も職業外交官など実務者による「ハードな外交」だけでなく即物的な利害を超えた王侯による「ソフトな外交」の価値が失われていないことを示します(本書152-194頁)。

本書のもう一つの勘所である継続性と安定性こそ現在の王室外交の特長という観点については、エリザベス2世の事例だけでなく今後の日本の皇室の「国際親善」にも当てはまることが示唆されており(本書229-230頁)、興味深く思われます。

世界の歴史を背景としつつ個別の事例を通して「宮廷外交」と「王室外交」の変遷を検討し、最後は「王室外交」の将来まで見通す『王室外交物語』は、豊富な図版とともに、読み応えのある一冊です。

<Executive Summary>
Book Review: Naotaka Kimizuka's "Tales of Royal Diplomacy" (Yusuke Suzumura)

Professor Dr. Naotaka Kimizuka published a book titled Tales of Royal Diplomacy from Kobunsha on 17th March 2021.

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