カントの『永遠平和のために』から考える「哲学は新型コロナウイルス問題に対していかなる役割を果たせるか」という問い

現在、新型コロナウイルスの感染の拡大により、世界各国で国境の封鎖や自国民の出国や外国人の来訪の制限などが行われています[1]。

こうした状況は、あたかもカントが1795年に著した『永遠平和のために』(Zum Ewigen Frieden)の中で指摘し、平和を維持するための手段の一つとして肯定的な理解を示した、18世紀当時の中国や日本における海禁政策が蘇ったかのようです。

しかし、実際には、現在も国際社会が他国との交流を途絶させたわけではなく、規模が縮小されているとはいえ、人的、物的な関係も失われていません。

また、「鎖国」を評価したかのように見えるカントも、実際には国家間の永遠の平和を定める3つの条件として「各国における民主主義に基づく共和制の採用」、「国際法およびその執行機関の基礎としての自由な諸国家の連合」、「普遍的な友好をもたらす諸条件による世界市民法の制限」を挙げ、国家間の経済的な交易を通して自ずから保証されると指摘します。

もちろん、いわゆるグローバル化が永遠平和の道筋を適確に提示できるかは難問であるばかりでなく、「グローバル化は永遠平和を保証する世界市民主義と結びつかず、特定の共同体や文化・宗教の差異等を抑圧する」[2]ことも、われわれの知るところです。

あるいは、法を遵守する国家相互の関係だけが影響力によって平和を拡大できる唯一の方法であるとする場合、カントの主張する訪問権とも関係する難民や移民の受け入れ問題などとどのように整合するかが課題となります。

しかしながら、永遠の平和の理念を実現するために成熟した市民、国家、そして国際社会の実現が不可欠となるように、新型コロナウイルスの問題についても、われわれは刻々と変化する状況を絶えず注視しつつ、成熟した市民、国家、そして国際社会の連帯と連携をより強固なものにする必要があると言えるでしょう。

もし、「新型コロナウイルスの感染の拡大という現状に対して、哲学はいかなる役割を果たせるか」という問いを立てるなら、得られる回答は様々です。また、このような問いそのものが意味を持たないという可能性もあり得ます。

それでも、各国が互いに隔絶の度を強めているかのような状況を考えるなら、かつてカントが提起した永遠の平和のための取り組みから、われわれは何かを学ぶことが出来るかもしれないと言えるのです。

[1]世界の航空 支援急務. 日本経済新聞, 2020年3月19日朝刊3面.
[2]牧野英二, カント哲学と平和の探求. 法政大学文学部紀要, 74: 1-20, 2017.

<Executive Summary>
What Is a Role of Philosophy against an Outbreak of COVID-19?: Based on Kant's Zum Ewigen Frieden (Yusuke Suzumura)

"What is a role of philosophy against an outbreak of COVID-19?" is a remarkable question for us. On this occasion we examine Immanuel Kant's Zum Evigen Frieden (Perpetual Peace) published in 1795 to make an aswer to the question.

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