改正国民投票法の成立は「早期の改憲」をもたらすか

昨日、憲法改正の手続きを定めた国民投票法の改正案が参議院本会議で可決され、成立しました。

今回の改正により、期日前投票の対象や有権者が投票所に同伴できる対象の拡大など、国政選挙や地方選挙ですでに導入されている制度が適用されることになりました[1]。

また、改正に際しては国民投票が実施される場合、投票前の宣伝活動について施行後3年を目途に必要な法制上の措置などを講じるとする付則も可決されており[2]、与党側が改正に慎重な立場を示していた野党第一党の立憲民主党に対して配慮を示した形となりました。

こうした状況を受けて、自民党や日本維新の会、国民民主党などの憲法改正に積極的な各政党は今年10月までに行われる衆議院議員総選挙で憲法改正を公約に掲げる意向を示しています[2]。

確かに、憲法改正に意欲的な諸政党が党派の違いを超えて団結すれば、衆参両院で3分の2を超える勢力を獲得し、国会で憲法改正の発議を行うことは可能です。

このように考えれば、今回の国民投票法の改正を契機に改憲の機運が高まり、憲法の改正が実現するという予測も成り立つでしょう。

その一方で、たとえ国会で憲法改正の発議がなされたとしても、憲法の改正を目指す各勢力の所属議員が各々の選挙区で憲法の条文の変更に賛成する有権者の数を増やし、過半数を超える支持を獲得しない限り、実際の国民投票で過半数の賛成を得ることはおぼつかないところです。

しかも、改正国民投票法の成立にって期日前投票の適用条件が緩和されるなど、投票者数全体が増加する可能性も推察されます。

そのため、ひとたび国民投票で改憲案が否決されれば、改憲派の受ける打撃は大きく、改憲の機運そのものが失われかねません。

憲法改正について各党がそれぞれの立場を明らかにするとともに国民の間で広く議論がなされることは好ましいものの、改憲派の国会議員の全てが自らの選挙区で入念な取り組みを行っているとは言い難い現状においては、憲法の改正の現実味は、依然として乏しいままに留まります。

従って、改正国民投票法の成立は早期の改憲をもたらすことにはならないのです。

[1]国民投票法改正案 成立へ. 日本経済新聞, 2021年6月11日夕刊1面.
[2]改正国民投票法が成立. 日本経済新聞, 2021年6月12日朝刊4面.
[3]鈴村裕輔, 日本国憲法の施行から74年に際し改めて「改憲への道のりの遠さ」を考える. 2021年5月3日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/9f1bea8dea0f380e23077432f874ae1b?frame_id=435622 (2021年6月12日閲覧).

<Executive Summary>
Dose the Revised National Referendum Law Accelerate Constitutional Amendment? (Yusuke Suzumura)


The Revised National Referendum Law has passed the House of Councilors and enacted on 11th June 2021. It is said that through such revision Constitutional Amendment might accelerate. However it would not be true, since there is no exact evidence that pro-constitutional amendment could win majority of votes.

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