「新型コロナ問題」における「分かりやすい標語」の問題は何か

去る4月18日、19日は、47都道府県を対象とする緊急事態宣言が発令されてから最初の週末となりました。

発令以前に比べて繁華街や行楽地などへの人出が半分以下に減少した地域がある一方で、現象の幅が小さい地域もあるなど、各地で人々の対応に偏りが見られました[1],[2]。

こうした状況は、「3密を避ける」、「社会的距離を保つ」、「出勤者の7割削減」などといった「新型コロナ問題の対策」という点からは、必ずしも好ましくない事態のように思われることでしょう。

実際、各種の報道などでも、こうした状況を否定的に取り上げる様子が散見されます[3]。

しかし、われわれが注意すべきは、「社会的距離を保つ」や「出勤者の7割削減」は数値が明示されているだけに、新型コロナウイルス感染症対策における分かりやすい一種の標語として広まった、という点です。

すなわち、数値が明示されると、われわれは数値そのものを「真実」として受け入れ、そのような数値が提示された根拠を問うことが少なくなりがちです。

例えば、「2メートル離れる」や「出勤者の7割削減」も、根拠となる疫学や医学の研究があり、それらの研究の知見のうち、結論に相当する内容が取り出されたものです。

従って、本来は様々な条件が設定され、所与の想定の下で研究がなされた上での結論であるにもかかわらず、「2メートル離れていれば大丈夫」、あるいは「出勤者を7割削減できないのはけしからん」といった価値の判断に用いられることになりかねないのは、この間のわれわれの行動を見るだけで明らかでしょう。

一方で、具体的な数値の前提となる研究の成果を詳細に眺めれば、論文であれ報告書であれ、「2メートル離れていれば安全だ」、「出勤者を7割削減することが不可欠だ」とは書かれていません。

むしろ、こうした措置をとることが状況の改善に有効であることを示唆するにとどめていることが分かります。

このような書き方は、研究の内容が不正確であることを意味するのではなく、得られた結論は様々な可能性の中の一つであるとともに、厳密に設定された条件の下でのみ有効なのであって、異なる条件や環境の中では異なる結果が得られることを示しています。

われわれにとって、例えば「三密」を徹底することは新型コロナウイルスの感染の拡大を防止するために有効な手段の一つではあっても、唯一の方策ではないということは、十分注意されるべきです。

あるいは、「三密だけで大丈夫」といった考えは、手洗いのような基礎的な防疫措置をないがしろにさせる可能性があるという点で、有害でさえあります。

それだけに、われわれには、「分かりやすい標語」の意味とその背景を今一度確認することが求められると言えるでしょう。

[1]人出、前週比3~4割減. 朝日新聞, 2020年4月20日朝刊2面.
[2]公園・物流周辺は人増加. 日本経済新聞, 2020年4月19日朝刊3面.
[3]減少率に濃淡. 日本経済新聞, 2020年4月19日朝刊3面.

<Executive Summary>
How Can We Apply Slogans Concerning on Preservation Measures for the COVID-19? (Yusuke Suzumura)

Now there are many slogans to prevent an outbreak of the COVID-19 in the world. On this occasion we have to meanings of these slogans with a rational viewpoint, since it is just a slogan and not an exclusive solution.

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