「防衛費増額の財源問題」で岸田文雄首相は何をなすべきか

昨日、自民党総裁である岸田文雄首相は自民党の役員会において防衛費の増額にかかる財源の問題について発言し、「いまを生きる国民が自らの責任としてしっかり重みを背負って対応すべきものだ」と指摘しました[1]。

防衛費の増額については、自民党安倍派を中心として増税による手当を批判し、赤字国債の発行により対応することを主張する意見があります。

確かに、どのような税目であろうと増税することで消費活動や生産活動が委縮するなら、経済活動の停滞に繋がりかねない、憂慮すべき事態になると言えるでしょう。

一方、1966年2月25日の衆議院大蔵委員会において、佐藤栄作内閣の福田赳夫大蔵大臣が「防衛費は消耗的な性格を持つため国債発行の対象にすることは適当ではない」という趣旨の発言を行い[2]、旧大蔵省及び財務省は自衛隊の設備は耐用年数が短いとして国債の発行対象として認めてこないという経緯があったことも事実です。

そのような中で、政府が自衛隊の施設整備費の一部に、建設国債を活用する方針を固めたこと[3]は、防衛予算に関する従来の方針を転換するとともに、自民党内の意見に配慮した結果でもあります。

それとともに、法人税、たばこ税、復興特別所得税を活用して防衛費の増額のための予算を手当てするという政府の方針は、赤字国債は将来世代の債務負担により現在の世代の事業を行うことであり、一層の財政悪化をもたらすことはあっても、安定した財源の確保には繋がらないという考えを反映するものです。

岸田首相の考えは、池田勇人以来宏池会が伝統とする均衡財政の立場に基づくものであり、為政者として長期的な視点に基づく、重要なものです。

しかし、国会での審議を経ることなく、与党内での調整と閣議決定により方針が定められようとする点は、門ぢを含みます。

すなわち、閣議は行政府である内閣の最高意思決定機関ながら、国民の代表である国会での審議をないがしろにすることは、防衛費増額問題を国民が考える機会を奪うことに他なりません。

これは、「今を生きる国民が自らの責任としてその重みを背負って対応すべきもの」という岸田首相の発言に一致しない対応しないばかりでなく、安倍晋三元首相の国葬儀について閣議決定を行うのみで国会審議を経なかったために、制度上は問題ないもかかわらず手続きの正当性に疑問が呈されたのと同じ過程を歩んでいます。

それだけに、岸田首相に求められるのは、与党だけでなく野党との間でも防衛費の増額と安定した財源の確保の問題について国会で審議すること、そして国民に対して防衛費の増額と、国債の発行ではなく増税によって不足分を補うことの必要性と妥当性を説明することになります。

今後、岸田首相がどのように「伝える力」を発揮するか、注目されます。

[1]高市氏「罷免でも仕方ない」. 日本経済新聞, 2022年12月14日朝刊4面.
[2]第五十一回国会衆議院大蔵委員会. 第14号, 1966年2月25日, 5頁.
[3]自衛隊施設に建設国債. 読売新聞, 2022年12月13日朝刊1面.

<Executive Summary>
How Can Prime Minister Fumio Kishida Perform His Power of Explain the "Defense Budget Issue" to the People of Japan? (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Fumio Kishida says that the "Defense Budget Issue" is a problem for the people of Japan themselves. On this occasion we examine a method with which Prime Minister Kishida to explain the problem by his own power.

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