「新型コロナウイルス問題と大学生への支援」を通して考える「大学の学費の問題」

本日、萩生田光一文部科学大臣が記者会見を行い、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で大学生からアルバイトの収入が減って生活が厳しいといった声が上がっていることについて、学生が学校に通うのを断念するといったことにならないよう、各大学に授業料の納付期限の延長や減免を重ねて要請する考えを示しました[1]。

確かに、「新型コロナウイルス問題」による家計の悪化が学生の皆さんに経済的な不安を与えているという点が社会的な関心を惹きつつあることを考えれば、大学側が何らかの対策を講じることは妥当な措置と言えるでしょう。

一方、たとえ遠隔方式であるとはいえ講義が行われるのであれば授業料は必要となります。また、遠隔方式による講義を行うためにも通信設備の維持や拡充が必要になるのですから、授業料や施設費などをにわかに減免することなどは容易ではないかも知れません。

あるいは、より大本の問題として、家計の悪化が授業料の納付を困難にする理由を考えるなら、私立大学だけでなく、国公立大学であっても国家の予算による金銭的な支援が制限され、競争的な資金の配分に重点が置かれていることが授業料の高騰を招いたという側面は否めません。

私立大学の場合に限っても、1975年に成立した私立学校振興助成法において「大学又は高等専門学校を設置する学校法人に対し、当該学校における教育又は研究に係る経常的経費について、その二分の一以内を補助することができる。」[2]とされながら、依然として規定された額を下回る支出しかなされていません。

この点に関しては、「財政悪化という1970年代の社会経済的背景」[3]の下で私立学校振興助成法が成立したことの影響も見逃せないところです。

その意味で、今回の「新型コロナウイルス感染症と大学の学費の問題」は、これまでの、日本における高等教育を巡るあり方の一つの帰結と言えるかも知れません。

これに加えて、もし文部科学省が問題の解決のために国公私立大学に「学生支援用」の名目で補助金などを支給する場合、当座の問題を解決するかもしれないものの、別な問題を生み出すであろうことが懸念されます。

すなわち、あらゆる補助金が自ずから含む、支給する側が受給する側に優越的な地位を占めるという構図が生じかねないという問題です。

周知の通り、文部科学省は補助金や助成金を通して各大学のあり方に相当程度の影響を与えています。

そこに、新たな補助金が投入されることになれば、各大学に与える文部科学省の影響はますます大きくなることでしょう。

もちろん、一人ひとりの学生の窮状が各大学の経営に悪影響を及ぼし、結果として日本の高等教育の基礎が揺らぐことがあってはなりません。

それとともに、文部科学省の各大学の経営に対する介入の度合いが高まることは、早晩大学の活発な研究教育活動を損ない、やがて高等教育の停滞を招く結果をもたらしかねないところです。

こうしたことからも、「新型コロナウイルス感染症と大学の学費の問題」は実に根深く、しかも当座の解決策は提示できても問題そのものを解くことは決して容易ではないと言えるでしょう。

[1]萩生田文科相 学生の負担軽減を重ねて要請へ 大学への支援も. NHK NEWS WEB, 2020年4月28日, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200428/k10012409011000.html (2020年4月28日閲覧).
[2]私立学校振興助成法. 第四条.
[3]荒井英治郎, 私立学校振興助成法の制定をめぐる政治過程. 日本教育行政学会年報, 32: 76-93, 2006.

<Executive Summary>
What Is an Important Problem of "Financial Support for the University Students"? (Yusuke Suzumura)

Concerning on an outbreak of the COVID-19, it is serious problem in Japanese society to support the university students from their financial crisis. At the same time, when such financial support by the government will be realised, there might be other serious problem for the universitys, increasing influence of the government.

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