「トーマス・バッハIOC会長の来日」は何を意味するか

昨日、来日中の国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が菅義偉首相や小池百合子都知事らと会談し、2021年夏に開催予定の東京オリンピックの開催に向けた意見交換を行いました[1]。

IOCにとってオリンピックの開催は唯一の目標であり、最大の収入源である以上、「中止」という選択肢がIOCの存立にかかわる重大事であること、また、水面下での交渉はともかく、表面的に自ら進んで「中止」と唱えられない状況にあることは容易に推察されるところです。

さらに、すでに本欄が指摘するように、バッハ会長が行動からも政治的な動きに長けていることは明らかなだけに[2]、バッハ氏の言葉を額面通り受け取ることは必ずしも適切ではありません。

実際、「ワクチンが手に入る状況になれば、IOCとしてコストを引き受ける」[1]という発言は、「ワクチンが手に入る状況になれば」という前提があるものの、現時点でワクチンが完成し、実用に供される時期が不明であるばかりでなく、どの程度流通するか不明であることを考えれば、バッハ会長が開催に向けたIOCの積極的な姿勢を示すためにワクチンの費用に言及したと考えることが妥当でしょう。

その一方で、日本政府が、大会に参加する外国人選手などに入国後14日間の待機措置を免除する方針を検討していることは、たとえ行動に規制を課すとしても、公共の福祉に益するか判然とせず、むしろ合理的な根拠を欠く裁量的な措置であるという誹りは免れがたいところです。

また、外国からの観客についても、緩和措置を講じるとのことながら[1]、オリンピックの観戦を行わない通常の外国人観光客への対応との間に差が設けられるとすれば、やはり取り組みの適切さが問題とならざるを得ません。

それとともに、事務的な相談であれば来日せずとも遠隔会議方式による打ち合わせが可能であり、安倍晋三首相への功労章の授与[3]も緊急性の高い用件ではないことを考えれば、バッハ会長が関係各所を訪問したことは、直接対面して話し合わなければならない事項を取り扱うためであると推察されます。

こうした点からも、東京オリンピックの開催の可否を巡る関係者の協議の推移が注目されるところです。

[1]IOC会長、五輪開催へ首相と連携. 日本経済新聞, 2020年11月17日朝刊2面.
[2]鈴村裕輔, バッハIOC会長の「開会挨拶」はオリンピック憲章に背く. 2014年2月8日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/00133ab22fb9925d724180e10463311b?frame_id=435622 (2020年11月17日閲覧).
[3]小池知事・森会長と面会. 日本経済新聞, 2020年11月17日朝刊40面.

<Executive Summary>
What Is a Meaning of Dr. Thomas Bach's Visit to Tokyo? (Yusuke Suzumura)

Dr. Thomas Bach, the President of the International Olympic Committee, met Prime Minister Yoshihide Suga and Tokyo Governor Yuriko Koike on 16th November 2020. It might have a remarkable meaning for the IOC to examine the possibility of the Tokyo Olympics 2021, since there was no need for them to come to Japan and discuss directly when a topic was the practical.

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