『クラシックの迷宮』の特集「音で旅する“司馬遼太郎と池波正太郎の世界”」が教える「国民的作家」の作品の多様性

去る5月6日(土)、NHK FMの『クラシックの迷宮』では、生誕百年を迎える司馬遼太郎と池波正太郎に焦点を当て、「音で旅する“司馬遼太郎と池波正太郎の世界”」と題して放送されました。

ともに現在も作品が読み継がれる司馬と池波は、映画やテレビドラマにも多くの題材を提供してきました。

今回はそのような二人ならではというべき企画で、司馬遼太郎のNHK大河ドラマや『坂の上の雲』のような大型テレビドラマ、あるいは『燃えよ剣』などの映画から、池波正太郎の『鬼平犯科帳』や『必殺仕掛人』などの作品と、それに付随する音楽が紹介されました。

伊福部昭、武満徹、林光、一柳慧、池辺晋一郎、津島利章、富貴晴美といった名前に混じって平尾昌晃やジプシー・キングスが入り、クリスタル・キングや春日八郎が登場するのは、「クラシック」を「音楽そのもの」という最も広い意味で捉えるこの番組ならではの光景です。

それとともに、かつて楽劇が総合芸術とされ、後に映画音楽が作曲家にとって大きな位置を占めるたように、毎週放送されるテレビドラマも20世紀半ば以降の作曲家にとって作品の披露の場として重要な意味を持つことが改めて示されたことも、今回の放送の教育的な効果の一つです。

何より、それぞれの音楽が付された作品の概要を紹介する片山杜秀先生が、池波正太郎の作品を概括して「無国籍的」と表現し、そうした池波文学の特徴が音楽にも影響を与えるだけでなく、無国籍的な音楽を通して一連の映像作品の魅力が一層高まったと指摘する様子は、「音の旅」が文字と映像の交わるところに到着したことを示すものでした。

その意味で、今回の放送は生誕百年を迎えるふたりの作家が今なお様々な可能性を秘めていることを聴取者に象徴的に訴えた、意義深い回内容であったと言えるでしょう。

<Executive Summary>
The "Labyrinth of Classical Music" Demonstrates Remarkable Relationships between Literature and Music (Yusuke Suzumura)

A radio programme entitled "Labyrinth of Classical Music" (in Japanese Classic no Meikyu) broadcasted via NHK FM featured "Journy with Music to the World of Shiba Ryotaro and Ikenami Shotaro" on 6th May 2023. It might be a meaningful opportunity for us to understand relationships between literature and music and meaning of TV programme or movie for the composers and singers after the mid 20th century.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?