「書評」について思ったいくつかのこと

どれほど周到に情報を収集していても取りこぼしがあることは、われわれが日々実感するところでしょう。また、一冊の本をどれほど早く読み通すことが出来るとしても、年間7万点を超える新刊書籍[1]の全てに目を通すことが現実的でないことも、明らかです。

それだけに、書籍の内容を紹介し、論評する書評は、読者にとってその書物が一読に値するか否かを判断する手掛かりとなるだけでなく、見逃していた書籍を知るためにも重要となります。

新聞や雑誌が書評を定期的に掲載するだけでなく、書評を専門とする新聞の類が刊行されていること、あるいは書評を専門とする書評家や専門分野を同じくする研究者による書評論文の存在は、こうした推測を傍証するものです。

そして、多くの場合、優れた書評は読者に書籍の魅力を伝えるとともに、実際に手に取ることを促す役割を担います。

その一方で、時に寸評を加える書籍を十分の内容に理解していない、あるいは書籍の全編に目を通さずに執筆したのではないかと思われる書評を目にすることがあります。

もちろん、書評の書き方は人それぞれです。従って、ある特定の方法によって書かれなくてはならないといった規制はないかも知れませんし、表現の様式は任意です。

それでも、例えば書籍の内容は目次や著者によるまとめを踏襲するだけで、対象となる書籍の内容から逸れた話題について議論したり、特殊で具体的な話題について検討している書籍であるにもかかわらず、そのような議論の特徴を踏まえていない書評が執筆されればどうでしょうか。

たとえ取り上げられている書籍を目にしたことのない読者であっても、そのような書評を見分けることは必ずしも難しいものではないでしょう。

むしろ、熟読せずに一書を評論することは、対象となる書物をまだ手にしていない読者の興味を失わせるばかりでなく、書き手自身のある種の不誠実さを示唆します。さらに、新聞や書評専門紙などに掲載される場合であれば、適切さに乏しい書評を公表するという不名誉に繋がりかねません。

その意味でも、書評は、取り上げる書物の評価そのものに限らず、評者の質のいかんや掲載する媒体のあり方をもわれわれに教えるものなのかも知れません。

[1]日本の統計2020. 総務省, 2020年, 254頁.

<Executive Summary>
What Is a Meaning of a Book Review? (Yusuke Suzumura)

A book review is remakable method for the readers, since no one has enough time and opportunity to read all published book. At the same time it implies quality and ability of a reviewer, because we can understand whether the critic reads a book carefully or not through the review.

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