「東京地検特捜部による安倍派と二階派の家宅捜索」の持つ意味は何か
昨日、東京地方検察庁特捜部は自民党の安倍派と二階派の事務所を家宅捜索しました[1]。
自民党の政治資金問題は政治倫理の問題から刑事事件へと発展することとなり、旧橋本派による日歯連事件以来の政治資金にまつわる醜聞の観を呈しています。
岸田文雄首相にとってみれば国民の支持を一層失う事態であり、実際に政権の支持率は低下しています。
それにもかかわらず、岸田首相が政権を維持するうえで、今回の出来事が必ずしも不利益とならないことは、すでに本欄の指摘するところです[2]。
むしろ、安倍派の閣僚が揃って辞任したことで、2012年12月に発足した第二次安倍晋三政権以来続いた、首相と官房長官が別の派閥であるという一種のねじれ現象が解消され、岸田首相にとって自派の林芳正氏を官房長官に起用する契機を与えました。
また、2021年の総裁選挙の際にその影響力の排除を訴えた二階俊博氏が率いる二階派の閣僚についてあえて辞任を求めない態度を示したこと[3]は、一面で自らの進退を自らで決める余地を与えることで面目を保たせる措置と言えます。
それとともに、他面において安倍派との対応の差を付けることで、安倍派内でも特に選挙基盤の弱い当選回数の少ない議員の間に不安を喚起させ、同派の結束を緩める作用も持ちます。
ある意味で古典的な派閥政治の緩急ともいえる対応ながら、派閥単位の行動を重視する岸田首相にとっては、その特徴を活かす格好の機会になったと言えます。
それだけに、世論の指弾を受けるだけでなく司直の捜査にも直面する安倍派と二階派の今後の対応が注目されるとともに、この出来事がどのように自民党内に波及するか、今後の推移が注視されます。
[1]安倍派・二階派を捜査. 日本経済新聞, 2023年12月20日朝刊1面.
[2]鈴村裕輔, 政治資金問題による閣僚交代は岸田内閣にどのような影響を与えるか. 2023年12月13日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/6425a63ac23d285a4a95aa0181f1518d?frame_id=435622 (2023年12月20日閲覧).
[3]二階派2閣僚は続投. 日本経済新聞, 2023年12月20日朝刊4面.
<Executive Summary>
What Is the Meaning of the Investigative Team from the Tokyo District Public Prosecutors Officefor for the Liberal Democratic Party? (Yusuke Suzumura)
The Investigative Team from the Tokyo District Public Prosecutors Office conducted the domiciliary search at the Abe and Nikai Factions of the Liberal Democratic Party (LDP) on 19th December 2023. On this occasion, we examine the meaning of this political scandal for Prime Minister Fumio Kishida and the LDP.