NHK交響楽団の「NHKホールでの5か月ぶりの演奏」に寄せて

昨日、19時30分から21時10分までNHK FMの『ベストオブクラシック』を聴取しました。

今回は、NHKホールにおいてNHK交響楽団の無観客により開催した演奏会の模様が実況中継されました。演奏されたのはモーツァルトのディヴェルティメント第14番、ワーグナーの『ジークフリートの牧歌』、ベートーヴェンの交響曲第1番で、指揮は熊倉優でした。

NHK交響楽団が日本国内で演奏を行うのは2月15日(土)と16日(日)の第1935回定期公演以来5か月ぶりとなりました。

管楽器のみによるモーツァルト、室内楽であるワーグナー、そしてトロンボーンを除く標準2管編成による管楽器とティンパニ、そして第1ヴァイオリンが8名、第2ヴァイオリンが7名、ヴィオラが6名、チェロが4名、コントラバスが2名という編成によるベートーヴェンと、演奏会ではいわゆる社交的距離を確保するための配慮がなされていました。

こうした小規模な奏者での演奏は大編成の作品を得意とするNHK交響楽団にとっては必ずしも馴染みのある取り組みではないかも知れません。

しかし、いずれも旋律が巧みに折り重なることでかえって彫の深い演奏となったことは、各奏者の力量の高さを示すだけではなく、NHK響の今後の演奏会のさらなる可能性を示唆するものでした。

また、NHK響にとって新型コロナウイルス感染症の感染の拡大という状況の中で、5か月の中断をはさんだ後に行う演奏会の指揮者に新進の熊倉を起用したことは、一面において外国からの渡航の規制による外国人指揮者の招聘の困難さや熊倉が2019年までNHK響首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィの助手を務めていたことなどを理由とすると考えられます。

それとともに、8月2日(日)に本拠地であるNHKホールでNHK響が6か月ぶりに観客を前に行う「N響・夏のフレッシュコンサート~音楽でふれあおう~」の指揮者に沖澤のどかを起用したこと[1]と同様に、困難な状況に直面してむしろ新進の人材を起用する、積極的な取り組みであることを推察させます。

その意味でも、昨日の演奏会はNHK響が今後の演奏活動の継続に対する強い意欲を示した、重要な機会になったと言えるでしょう。

[1]NHK交響楽団、NHKホールで6か月ぶりにお客様を迎えて公演を開催. NHK交響楽団, 2020年7月10日, https://www.nhkso.or.jp/news/20200710.html (2020年7月18日閲覧).

<Executive Summary>
The NHK Symphony Orchestra Special Concert at the NHK Hall (Yusuke Suzumura)

The NHK Symphony Orchestra held a special concert at the NHK Hall on 17th July 2020. They played Mozart's Divertimento No. 14, Wagner's Siegfried-Idyll and Beethoven's 1st symphony. Conductor was Masaru Kumakura.

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