「4閣僚辞任問題」において岸田文雄首相の任命責任はいかに考えられるか

昨年10月から12月にかけて、岸田文雄内閣の閣僚4人が辞職しました。

すなわち、山際大志郎国務大臣、葉梨康弘法務大臣、寺田稔総務大臣、秋葉賢也国務大臣が、3か月のうちに相次いで閣外に去っています。

世論の関心の高い問題に関与した山際国務相、不適切な発言が問題視された葉梨法相、不適切な政治活動の責任を取った寺田総務相と秋葉国務相というように、4人が辞職した理由は様々です。

不祥事とはあるもののブランドを阻害するものであり、ブランドをあるものと他のものを区別する特徴的な要因と考えるなら、閣僚の辞任はある政権の正当性や信頼性というブランドを低下させる現象であり、閣僚の辞任はある政権のブランドの価値を低下させる不祥事となります。

それでは、政権にとってのブランドの価値とは何でしょうか。

有権者からの支持率は、政権にとって自らの正当性や信認度を強調するための重要なブランドとなります。そして、閣僚の辞任によって支持率が上昇する場合、その辞任は政権にとっては不祥事とはならないものの、閣僚の辞任が支持率の低下につながる場合、その辞任は政権にとって不祥事となるのです。

このように考えれば、閣僚の相次ぐ辞任が支持率の低下の一因となっていることは、岸田政権にとって4人の行動は不祥事であることが分かります。

しかも、山際、葉梨、寺田の3氏は1か月という短期間のうちに辞任しており、任命権者としての岸田文雄首相の判断の妥当性が問われるのも無理からぬところです。そして、昨年8月の内閣改造が失敗であったとされるのも一理ある評価と言えるでしょう。

ところで、岸田文雄首相の任命責任は、果たして4人に対しても存するのでしょうか。

大臣、副大臣、政務官については、任命に先立ち内閣情報調査室(内調)が過去の交友関係や行動を調査し、調査の結果、問題がないと判断されれば各職位に任命されるのが一般的です。

しかし、候補者が特定の情報を秘匿している場合などは、内調も十分な調査を行えません。すなわち、候補者が必要な情報を開示しているという前提に立つ限り、故意の情報の秘匿への対応は不十分にならざるを得ないのです。

従って、好ましい話題も不適切な事項についても十分な情報を得た後に任命している場合は、任命権者である岸田首相の判断の妥当性と任命責任が問題となります。

一方で、故意による情報の秘匿によって、十分と思われるものの、実際には不十分な情報しか得られていない場合は、岸田首相も限られた情報によって任命したことになり、判断の妥当性や任命責任を問題とすることは難しくならざるを得ません。

これに加えて、2013年12月に政権に復帰した安倍晋三氏は第1次政権時代に閣僚の相次ぐ不祥事によって支持率の低下に直面し、11か月間での退陣を余儀なくされるた経験を反省し、閣僚の不祥事については早期の更迭により事態の収拾を最優先しました。

岸田首相は安倍政権の対応が「説明不足」と批判されたことを考慮し、各閣僚が十分に説明を行うことを期待しました。

それにもかかわらず、4閣僚は当初は疑惑を否定したり発言を謝罪するのみで、経緯について詳細に説明せず、報道によりさらなる問題が明らかになることで、従来の説明の矛盾や不十分さが示されました。

その意味で、4閣僚は、弁解の余地がなくなることで、説明の機会そのものを十分に活用できなかったことになります。

このように考えれば、各人の自主性を尊重した岸田首相の対応が、結果的に問題の解決を難しくしたのであり、注意すべきは岸田首相の任命責任ではなく、好ましくない情報を故意に隠し、あるいは与えられた説明の機会に適切な対応を行わなかった4閣僚の態度となるでしょう。

4閣僚辞任の問題を考える際は、任命責任という話題となりやすい事柄だけでなく、どのような場合に任命責任が発生するのかというより根本的な点にも十分に注意することが不可欠なのです。

<Executive Summary>
What Is an Important Viewpoint to Examine the Ministers' Resignation and Its Impact to the Kishida Cabinet? (Yusuke Suzumura)

From October to December 2022, four ministers of the Kishida Cabinet resigned scandal or inadequate activities. On this occasion we examine its impact and meaning for the Kishida Cabinet.

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