「新型コロナ関連の要請」が示す適切な対応策の立案と実施の必要性

先日来、日本政府による新型コロナウイルスの感染の防止に関し、国民向けた安倍晋三首相の要請が出されています。

全国的なスポーツや文化関連の催事の中止や延期、規模縮小[1]や全国全ての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校の臨時休業[2]などは、あらゆるウイルスは対象となるヒトを選ばずに感染すること、さらに早期に対策を立案し、実施することがさらなる感染の拡大の抑止に有効であると考えられることから、こうした要請がなされることには一定の意義があると言えるでしょう。

しかし、すでに本欄も指摘するように、法的な根拠がないこと、あるいは要請されている行事の開催の可否に関する判断の基準が曖昧であることなどは、安倍首相による要請が持つ問題です[3]。

あるいは、厚生労働省による「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」において「イベント等の開催について、現時点で全国一律の自粛要請を行うものではない」[4]とされたにもかかわらず、翌日に「多数の方が集まるような全国的なスポーツ、文化イベント等」の中止や延期、規模縮小が要請されたことが朝令暮改の感を否めないことも、本欄が示す通りです[3]。

また、学校の臨時休校については、時限を設けた当面の措置ではあるものの、休校明けの各校では教職員が児童生徒への対応で過度の負担を強いられることになることが予想されますし、事態が終息せず4月以降も休校を余儀なくされるようであれば、弊害はより大きなものになることは明らかです。

これに加えて、3月に入ってから期末考査を予定している学校にとっては、今回の要請を受け入れる場合には試験の代替措置を取らない限り、3学期や後期の評点を付けられないという事態になりかねません。

期末考査の取り扱いについては、文部科学省として「期末試験は義務ではない。学業成績、卒業、進級などの取り扱いは、これまでの学習状況を踏まえ弾力的に対応する」[5]という趣旨の認識が示されています。

こうした認識は一面において新型コロナウイルスの拡大という事態の緊急性に鑑みた柔軟な姿勢の表れと言えるものの、他面においては弥縫的な対応策の域を出ないことを推察させます。

その一方で、今日になって安倍首相が休校の要請について「基本的な考え方として示した。各学校、地域で柔軟にご判断いただきたい」[6]と述べたことは、問題を含みます。

何故なら、前日の一斉休校の要請の際に「基本的な考え方」であることが明示されず、「各学校、地域で柔軟にご判断いただきたい」という点も強調されなかったにもかかわらず、翌日に遡及的に柔軟な判断を求めることは、一貫性を欠くと言わざるを得ないからです。

その意味でも、今回の休校の要請は教育現場の実態を必ずしも踏まえた措置ではないということが推察されるところです。

さらに、「専門家会議で議論した方針ではなく、感染症対策として適切かどうか一切相談なく、政治判断として決められたものだ。判断の理由を国民に説明すべきだ」という指摘[7]を踏まえれば、要請がなされた過程や要請の妥当性、相当性も慎重に確認されるべきでしょう。

「まず何よりも、国民の皆様に対し、正確で分かりやすい情報提供を引き続き行ってまいります。」という安倍首相の意欲を実現するためにも、そして平常ではない事態を迎えているからこそ、当局には明確な根拠に基づいた、適切な対応策の策定と実施が求められるのです。

[1]イベントの開催に関する国民の皆様へのメッセージ. 厚生労働省, 2020年2月26日, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00002.html (2020年2月28日閲覧).
[2]新型コロナウイルス感染症対策本部(第15回). 首相官邸, 2020年2月27日, https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/202002/27corona.html (2020年2月28日閲覧).
[3]鈴村裕輔, 当局に求められる「イベントの中止や延期」問題における「損失補填」への対応. 2020年2月27日,
https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/eb021815b664623694fd6dd4e0ad1a53?frame_id=435622 (2020年2月28日閲覧).
[4]新型コロナウイルス感染症対策の基本方針. 新型コロナウイルス感染症対策本部. 2020年2月25日, https://www.cas.go.jp/jp/influenza/kihonhousin.pdf (2020年2月28日閲覧).
[5]きいたかし, 新型コロナウイルス対策学校臨時休校に関する文部科学省からの回答. 2020年2月28日, http://kiitakashi2009.blog119.fc2.com/blog-entry-1916.html (2020年2月28日閲覧).
[6]休校は各地で柔軟に判断してほしいと首相. 共同通信, 2020年2月28日, https://this.kiji.is/606003501487309921?c=39550187727945729 (2020年2月28日閲覧).
[7]休校要請 専門家「評価難しい」. NHK NEWS, 2020年2月27日, https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20200227/1000044708.html?fbclid=IwAR1eL7LjeM8fDbwD4yZtSw4uI5w2q868-L4SQLRR7tAt_zoZL56neUjRvSY (2020年2月28日閲覧).
[8]新型コロナウイルス感染症対策本部(第13回). 首相官邸, 2020年2月25日, https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/202002/25corona.html (2020年2月28日閲覧).

<Executive Summary>
What Shall the Japanese Government Authorities Take Measures to the COVID-19? (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Shinzo Abe made some requests to prevent an outbreak of the novel (new) coronavirus (COVID-19) on 26th and 27th February 2020. It is very important decision and we want the authorities to take measures based on evidences and exact information.

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