島桂次を通して考える「NHKと政治の関係」

政府と報道機関、とりわけ公共放送であるNHKとの関係は、しばしば問題となります。

例えば、安倍晋三前首相が、森喜朗内閣の官房副長官であった2001年1月に、旧日本軍の従軍慰安婦問題を裁く民衆法廷を扱ったNHKの番組について、放送前に内容に偏りがあるなどとして「公正中立の立場で報道すべきではないか」とNHK側に指摘したように[1]、放送事業者が放送する番組の内容について政府や政権党が介入することは決して珍しくありません[2]。

このような、「政治によるNHKへの介入」について明確な形で批判を行ったのは、元NHK会長の島桂次です。

すなわち、島は次のように批判します。

日本の政府はNHKの経営委員会支配や放送免許権などの実態を見れば明らかなように、本来、放送による表現の自由や自律を確保する(放送法第一条)ため制定されたはずの放送法を、逆にメディア支配の道具に使ってき使ってきたといえるのだ。

島が政治記者として活躍し、日本社会党の代議士であった鈴木善幸を民主自由党から自民党に鞍替えさせるとともに、池田勇人の時代から宏池会と密接な関係にあったことは広く知られるところです。

従って、政治の距離が極めて近く、政治家は取材の対象であるだけでなく交渉の相手でもあったことを考えれば、島の言葉が政治的な響き、すなわち言外の意味を辿る必要を持つことには注意が求められます。

それとともに、NHK会長として実感した、「政治の圧力」が凝縮された一文であることも、見逃せません。

その意味で、現在のNHKが置かれた難しさの一端は、ある意味で「政治に立ち向かう人物」ではなく「政治の意を体する人物」が経営を差配している点にあるのかも知れません。

[1]NHKの「慰安婦」番組、安倍氏、放送前「偏り」指摘. 2005年1月13日朝刊2面.
[2]4 鈴村裕輔, 「報道ステーションでの古賀発言」の真の問題は何か. 2015年4月3日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/fea00295c0e6b33d30f0abcb3e8c8820?frame_id=435622 (2020年11月13日閲覧).
[3]島桂次『シマゲジ風雲録』文藝春秋, 1995年, 74頁.

<Executive Summary>
What Is a Difficulty for the NHK?: Seen from a Viewpoint of Keiji Shima (Yusuke Suzumura)

It seems that there are conflicts between the NHK and statesperson of administrative parties. In this occasion we examine a viewpoint of Mr. Keiji Shima, the Former President of the NHK.

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