「東京オリンピック組織委員会による声明」はいかなる意味を持つか

昨日、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、2月3日(水)に森喜朗会長が女性を蔑視する発言を行ったことを受け、声明を公表しました。

すなわち、声明は以下のような内容でした[1]。

弊会の先週の森会長の発言はオリンピック・パラリンピックの精神に反する不適切なものであり、会長自身も発言を撤回し、深くお詫びと反省の意を表明致しました。
「多様性と調和」は東京大会の核となるビジョンの一つです。ジェンダーの平等は東京大会の基本的原則の一つであり、東京大会は、オリンピック大会に48.8%、パラリンピック大会では40.5%の女性アスリートが参加する、最もジェンダーバランスの良い大会となります。
私どもは、改めてビジョンを再確認し、引続き、人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無など、あらゆる面での違いを尊重し、讃え、受入れる大会を運営します。ビジョンを追求しながら、多様性の調和、持続可能性、復興に重きを置き、大会後の社会の在り方にもレガシーを残すように取り組んで参ります。
引き続き、コロナの感染状況にも注視しつつ、対策に万全を期し、安全安心第一の大会とするべく準備を進めて参ります。

組織委員会が森喜朗会長の発言を受けて声明を出したことは評価できます。

その一方で、「会長自身も発言を撤回し、深くお詫びと反省の意を表明致しました」と森氏が不適切な発言を行ったことを認めたものの、再び同様の言動を行わないよう、組織としてどのように対処するかを明示していないという点は、声明の内容の不十分さを示します。

あるいは、「あらゆる面での違いを尊重し、讃え、受入れる大会を運営します」としながら、「大会後の社会の在り方にもレガシーを残すように取り組んで参ります」、「引き続き、コロナの感染状況にも注視しつつ、対策に万全を期し、安全安心第一の大会とするべく準備を進めて参ります」と記しことは、声明の趣旨を散漫にするだけでなく、組織委員会が事態をどの程度まで深刻に受け止めているかという点についても疑念を抱かせるものです。

もとより、組織委員会の内部でも種々の検討がなされた結果、こうした声明が公表されたと考えられます。

それだけに、こうした微温的な内容では、かえって組織委員会が一日も早く人々が「森発言」を忘れることを願っているかのごとき印象を与えかねません。

組織委員会は、組織として女性を蔑視する見解を否定する立場を明示する重要な機会を逸したと言えるのであり、今回の声明は、大会組織委員会が声明を出したという以上の意味を持たないのです。

[1]東京2020大会と男女共同参画(ジェンダーの平等)について. 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会, 2021年2月7日, https://tokyo2020.org/ja/news/news-20210207-01-ja (2021年2月8日閲覧).

<Executive Summary>
What Is a Meaning of the TOCOG's Statement "Tokyo 2020 and Gender Equality"?
(Yusuke Suzumura)


The Tokyo Organising Committee of the Olympic and Paralympic Games releases a statement entitled "Tokyo 2020 and Gender Equality" concerning on President Yoshiro Mori's inadequate comment on 7th February 2021. It is a statement which might be a kind of alibi for their attention on Gender Equality.

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