岸田文雄首相の衆議院政治倫理審査会への出席が持つ3つの大きな意味

本日と明日、自民党の政治資金問題を巡り、衆議院の政治倫理審査会が開催されます。

今回は、いわゆるパーティー券の収入の還流問題について、自民党の安倍派及び二階派の幹部5人とともに、岸田文雄首相が自民党総裁として全面公開の下で線稟申に出席します[1]。

岸田首相が現職の首相てして政倫審に出席するのは、衆参両院をあわせて初めてのこととなります。

それでは、岸田首相はなぜ異例の対応を決めたのでしょうか。

今回の判断は、少なくとも以下の3つの点で岸田首相に利をもたらすと考えられます。

(1)異例の出席をみずから行い、会の様子を全面公開とすることで、当初は出席に消極的であり、出席を決めた後も非公開を希望した他派の幹部との決断力の違いを強調できる。
(2)「説明責任」を強調しての参加のため、野党が求める「首相の説明責任」に応える形となり、野党の要求を受け入れるという「貸し」を作る。
(3)来年度予算を年度内成立の期限となる3月2日までの衆院通過を、野党への「貸し」の返済として暗黙のうちに求められる。

上記の3点は、一面において自民党内の権力闘争であり、他面では国会対策という性格を持ちます。

こうした対応はもとより国民の声を念頭に置くものではなく、その是非は議論の対象とならざるを得ません。

それでも、来年度予算案の年度内成立を最優先し、昨年12月に政治資金問題を抱える閣僚や党役員を交代させたのが岸田首相です。

従って、党運営の主導権を確保するだけでなく、国会内の駆け引きとして有効な対策を選ぶことは合理的となります。

むしろ、岸田首相の対応によってより難しい選択を迫られるのは野党側となります。

すなわち、野党側は政権党の党首として現職の首相が政倫審に出席するという絶好の機会を得たことで、岸田首相から実のある答えを引き出せるのでなければ、単に岸田首相に「説明責任を果たした」という証拠を与えるだけになってしまいます。

しかも、岸田首相に政倫審出席という借りを作ったことで、相応の返礼として衆議院で予算案の成立に同意するので、野党は「能登半島地震の対策費を含む予算の年度内成立を阻むのは野党」といった批判を与党側から受けかねません。

その意味で、岸田首相は自民党にとって不利な状況の中から最善の手段を選んだのであり、これまで政治資金問題で攻勢にあった野党側は予算案への対応を含めて、難しい判断を迫られることになりました。

それだけに、明日までの2日間開かれる衆院政倫審の行方が注目されます。

[1]政倫審、全面公開で開催. 日本経済新聞, 2024年2月29日朝刊1面.

<Executive Summary>
What Is the Meaning of Prime Minister Fumio Kishida's Participation in the Deliberative Council on Political Ethics of the House of Representatives?
(Yusuke Suzumura)

The Deliberative Council on Political Ethics of the House of Representatives will hold on 29th February and 1st March 2024 and Prime Minister Fumio Kishida will participate in the council as the President of the Liberal Democratic Party. On this occasion we examien the meaning of this decision by Prime Minister Kishida.

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