菅義偉首相が主体性を発揮するために考えるべき二つの点は何か
昨日、第一次菅義偉内閣が発足し、菅義偉首相が就任に際しての記者会見を行いました[1]。
約15分の演説の中で安倍晋三前首相の名前に言及した点については、「安倍政権の継承」を唱えて自民党の5派閥の支持を取り付けたことを考えれば、自らの首相就任の正当性の一端を強調するという意味でも適切な措置と言えるでしょう。
また、「秋田の農家の長男に生まれた私の中には、一貫して、地方を大切にしたい、日本の全ての地方を元気にしたい、こうした気持ちが脈々と流れております。」[1]と発言したことも、自民党総裁選に立候補した際の記者会見で改めて披露して以来、人口に膾炙した話題だけに、やはり菅首相としては妥当な判断と考えられます。
その一方で、今後、菅首相が主体性を発揮するためには安倍前首相の話題や「秋田出身の苦労話」を口にする頻度を少なくすることは、真剣に考えられなければならない課題となります。
第一の点については、かつて田中派の全面的な支援を受けて総理総裁の座を手にした中曽根康弘内閣が「田中曽根内閣」や「角影内閣」、あるいは「直角内閣」などと呼ばれたことが示すように、安倍前首相の名前を挙げれば挙げるだけ、「安倍院政」や「傀儡政権」といったあらぬ疑いがかけられ、菅首相の存在感の低下を招きかねません。
また、第二の点に関しては、「地縁も血縁もなく政治の世界に飛び込んだ自分が自民党総裁に就任することこそ民主国家日本の象徴である」という趣旨の発言[2]と「私が目指す社会像、それは、自助・共助・公助、そして絆であります。」という発言[1]を重ねると、自ら努力したことで総理総裁の座を手にしたという「成功譚」を肯定し、「自助努力」の価値を強調するという戦略的な意図が推察されます。
しかし、人情の機微は繊細であり、一度は人々を共感させる「苦労話」も同じ内容が続けば辟易とし、「自慢話」と捉えがちです。
それだけに、菅首相には、主体的に政権運営を行い、人々の理解を得るための新しく説得的な話題を見付ける必要があるのです。
[1]菅内閣総理大臣記者会見. 首相官邸, 2020年9月16日, https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/0916kaiken.html (2020年9月17日閲覧).
[2]菅総裁 会見要旨. 日本経済新聞, 2020年9月15日朝刊4面.
<Executive Summary>
What Are Important Points for Prime Minister Yoshihide Suga and His Speech? (Yusuke Suzumura)
On 16th September 2020, LDP Leader Yoshihide Suga was elected as the Prime Minister of Japan. In this occasion we examine important points for him and his speech.