東京オリンピックの開会式と閉会式はいかなる意味を持っていたか(1)

東京オリンピックでは、7月23日(金、祝)に開会式が、8月8日(日、祝)に閉会式が挙行されました。

そこで、本欄では、今回から2回にわたり、開会式と閉会式の内容と意義を検討します。

開会式については、1996年のアトランタ大会から顕著になった各国・地域の選手団が整然と隊列を組むのではなく思い思いの速さで歩くという傾向に加え、新型コロナウイルス感染症対策として選手団ごとの間隔も十分にとったため、参加者は最小限に抑えられたものの従来以上に悠然とした入場行進となりました。

また、開会のあいさつでは国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が約13分間の間に“solidarity”を繰り返し用いたものの、「誰との連帯か」という点を明示しなかったため説得力を欠き、具体性を伴わなかったことは、新型コロナウイルス感染症が世界的に流行するだけでなく開催都市である東京都が緊急事態宣言下にある中でオリンピックを開催する意義をIOCが正当化する重要な機会を失ったことを意味します。

バッハ会長は閉会式のあいさつにおいても大会の成功を強調しており、主催者を代表する立場としては当然の態度ながら、運営面と競技面、さらに運営面のどのような点が成功し、いかなる点が不首尾に終わったかを等閑視する発言に信頼を置けないということは明らかと言えるでしょう。

大会組織委員会の橋本聖子会長のあいさつも同様で、開会式においては「頑張ろう」と唱え、閉会式では「頑張った」と締めくくった以外の意義には乏しいものでした。

一方、開閉会式の出し物については、一つひとつの内容には見るべきものもあったとはいえ、開会式と閉会式のそれぞれを通して観るときに一貫性に欠け、相互に意味を共有せず分離した演目が並べられました。

特に、開会式での入場行進も含め、開閉会式で出演者や使用された音楽は日本国内では著名であっても外国での知名度は必ずしも高くないか、海外でも広く知られていても日本の作品や人物であるとは必ずしも理解されていないものが多いという点に特徴がありました。

これは、新型コロナウイルス感染症により国や地域を超えた人的な交流が制限された結果であるとはいえ、1992年のバルセロナ大会の音楽監督を坂本龍一氏が担当したことを考えれば、ある種の物足りなさを覚える人がいたとしても不思議ではありません。

それとともに、演出や企画の担当者が東京オリンピックを日本の中だけでなく世界の中にどのように位置づけるかという視点を欠いていたことが、こうしたいわば日本国内向け或いは内向きの内容に繋がったと言えるでしょう。

<Executive Summary>
What Is a Meaning of the Opening and Closing Ceremonies of the Tokyo Olympics? (I) (Yusuke Suzumura)

The Opening Ceremony of the Tokyo Olympics was held on 23rd July 2021 and the date of the Closing Ceremony was 8th August 2021. In this opportunity we examine a meaning of these ceremonies.

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