求められる文化団体への速やかな支援

新型コロナウイルス感染症の拡大による休業要請が解除された後も、劇場や映画館の利用者は伸び悩んでいます[1]。

その一方で、実際に演劇や音楽、舞踊などの各種の文化活動を担う団体も、公演の機会が失われたことで経済的な苦境に直面しています。

このような点について、5月初旬に文化団体に対する公的な支援や補償を速やかに行うことの重要さを指摘した一文を物しました。

本論は最終的に別な原稿に差し替えとなり、文化団体を巡る状況も変化しているものの、論旨の大幅な変更を必要とするほど環境が改善されていないと思われます。

そこで、未発表となった原稿を以下にご紹介する次第です。

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求められる文化団体への速やかな支援

鈴村裕輔

2月26日に安倍晋三首相が「全国的なスポーツ、文化イベント等」の延期や中止を要請して以来、いわゆる「フリーランス問題」が社会的な関心を集めているのは周知の通りだ。

特定の機関や組織に所属しないで活動するいわゆるフリーランスの演奏家や芸術家などの収入が減少したことは国会でも取り上げられており、先月成立した国の補正予算の中でも「持続化給付金」の対象にフリーランスが含まれている。

演劇や音楽、舞踏などの文化活動の一翼を担う人たちへの支援が実現したことは、補正予算の大きな成果の一つだろう。

一方、文化活動の基盤となっている団体への支援や補償は、「フリーランス問題」に比べて注目されにくい。

もちろん、一人ひとりの芸術家の収入の減少は個人の生活を直撃する。それだけに切実な問題といえる。

だが、公演の延期や中止が主催団体の収入に直結することは明らかだ。

例えば、日本のプロ・オーケストラが参加する日本オーケストラ連盟の報告では、2018年度における正会員25楽団の演奏会収入は事業活動収入の約53.7%を占めている。

従って、演奏会を行えなければ、それだけ主な収入を失うことになる。

実際、2月末からの演奏活動の自粛により、4月の時点で年間収入の1割以上を失ったプロ・オーケストラもある。

文化活動を行う団体の中には任意団体もあれば、有限会社や株式会社となっているもの、さらに社団や財団の形態をとる組織もある。

法人化している組織は「持続化給付金」を利用できるものの、収入を補うには十分な額とはいえない。

また、多くの団体が小口の寄附を募ったり、民間企業が社会貢献の一環として臨時の寄附を行ったりしているものの、公的な支援はまだだ。

全国銀行協会は、当面、手形や小切手の不渡り処分を猶予するという。

現行の公益法人制度では、各法人は法の定めによって収入と支出を均衡させる必要があり、内部留保は持てない。しかも2年連続で純資産が300万円未満となった場合には公益財団法人としての資格を喪失する。

政府や地方自治体は文化活動を行う団体への支援や補償を本格化させるだろう。その時、金銭面での支援とともに、倒産の基準や規制を緩和するといった対応を行わなければ、文化活動そのものの基盤が失われかねない。

今回の補正予算では、新型コロナウイルスの感染が終息した後の「にぎわい創出」に関連する事業も計上された。

だが、各地域の文化活動の担い手が不在ではにぎわいもむなしくなる。

それだけに、公的な支援や補償が速やかに行われることが期待されるところである。
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[1]劇場・映画館 客足まばら. 日本経済新聞, 2020年6月9日夕刊9面.

<Executive Summary>
We Need a Public Help for the Cultural Organisations (Yusuke Suzumura)

Even after the end of a state of emergency, it is difficult for the cultural organisations to maintain their activities and organisation. In this occasion I release an unpublished article concerning on a need of a public healp for such organisations.

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