「正しく恐れる」という表現はどこへ行ったか

「新型コロナウイルス問題」に関して、2月から3月にかけて主要全国紙の社説や論説記事などで取り上げられた「正しく恐れる」という言葉[1]-[4]も、今では目にする機会が減りました。

もちろん、現在流通するあらゆる情報を精査することは現実的には困難であるだけに、幾多の例外があることでしょう。

しかし、一時は「新型コロナウイルス問題」に対する重要な標語になったかの感のある「正しく恐れる」という表現が使用される頻度に変化が生じたことは、興味深く思われます。

何故なら、このような変化は、一面において「新型コロナウイルス問題」が「恐れる」段階を過ぎて具体的な対策を講じる以外に手立てのない状況に直面している結果であると言えるからです。

「社会的距離」や「出勤者7割削減」といった標語が示されていることは、われわれを取り巻く状況の変化を示唆します。

一方で、この2か月間で人々の新型コロナウイルス感染症に関する知識が増し、「社会的距離」や「出勤者7割削減」に加え、「密集、密閉、密接の3つの密を避ける」というような、感染を抑止するための具体的な対処方法が提示されていることも見逃せません。

すなわち、具体的な対策により、「正しく恐れる」といった抽象的ないし精神論的な表現の使用の余地を乏しくしていることを推察させます。

それだけに、人々が日々深刻さを増す状況に耐え兼ね、「恐れることそのものを忘れてしまった」という状況に置かれていないことが願われます。

[1]新型肺炎、デマに惑わされるな. 日本経済新聞, 2020年2月11日朝刊2面.
[2]正しく恐れる、ということ. 毎日新聞, 2020年2月20日朝刊13面.
[3]百年前のパンデミック. 朝日新聞, 2020年2月23日朝刊3面.
[4]編集手帳. 読売新聞, 2020年3月27日朝刊1面.

<Executive Summary>
Why Does a Phrase "Fear Correctly" Disappear in April 2020? (Yusuke Suzumura)

A phrase "Fear Correctly", which was a kind of common slogan for Japanese people concerning on an outbreak of the COVID-19 in February and March, disappears in April 2020. On this occasion we have to examine the reasons of this situation based on measures against the COVID-19 and our own mind.

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