「冬季五輪開催都市の一括決定」は適切な施策か

去る10月15日(日)、国際オリンピック委員会(IOC)の年次総会がインドのムンバイで開催され、2030年と2034年の冬季五輪の開催地を同時に決定する案が採択されました[1]。

今回の措置は、気候変動により安定して冬季五輪を開催できる都市が限定されつつある中で、早期に公的な開催地を確保しようというIOCの判断の結果とされています[1]。

確かに、IOCにとって唯一にして最大の競争力を持つ商品がオリンピック大会そのものである以上、肝心の商売に不可欠な開催都市の確保は必須です。

そのため、早期に開催地を確保して安定した開催都市を囲い込み、入念な準備を行うとしても不思議ではありません。

一方で、現在は冬季五輪の開催地として好適であるとしても、今後の気候変動の推移いかんによっては、10年後に開催都市が予想を超える状況に直面している可能性も否定できません。

従って、気候変動に伴う対応と言った説明は、一見すると妥当なように思われながら、実際には多分に不確実性を含む、ある意味で楽観的で、別な意味で無謀な対策となります。

むしろ、2025年に任期満了を迎えるトーマス・バッハ会長が、可能な限り早い段階で開催地を決定し、商売の環境を整えたとして自らの功績をさらに高めようとした結果と考えるられることが可能であるという点には注意が必要です。

実際、総会において出席者の一部からバッハ氏の会長としての任期の延長を求める意見が出されたことが示すように、IOCの委員の中で誰よりも政治的な駆け引きを好むバッハ氏一流の、一方で夏季及び冬季大会の開催地の早期決定による実績を作り、他方でその功績によって任期の延長への反論や異論を封じようとする動きが今回の措置に現れていると言えるかも知れません。

もとより、IOCの会長が誰になるとしても、われわれ一人ひとりには関係のない事かも知れません。

それでも、オリンピックを通して人間の尊厳や調和のとれた社会の実現などを謳い、公益性の高さを標榜するIOCという組織の特徴を考えるなら、個別の施策や目的の適切さや手続きの妥当さに注意が向けられるのは当然のことです。

それだけに、今回の決定が適正なものなのか否か、後日の検証が欠かせません。

[1]冬季五輪 2030年と34年開催地を同時決定. 日本経済新聞, 2023年10月16日朝刊32面.

<Executive Summary>
What Is an Important Attitude for Us to Examine the IOC's Policy to Select the Host Cities for the Winter Olympic Games of 2030 and 2034? (Yusuke Suzumura)

The International Olympic Committee held the 141st Session from 14th to 17th October 2023 and decided the new policy to select the host cities for the Winter Olympic Games of 2030 and 2034 at the same time. On this occasion, we examine validity and reliability of the policy.

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