広島への原爆投下から76年目に際し広島平和記念式典における平和話宣言の意味を考える

昨日、1945年8月6日に広島に原子爆弾が投下されてから76年目を迎え、原爆の犠牲となった人々の慰霊のため、広島平和記念公園では広島平和記念式典が行われました。

式典では広島市の松井一實市長が平和宣言を読み上げ、各国の指導者に対して武力ではなく対話を通した信頼関係に基づいた安全保障への発想転換と核軍縮の履行、さらに核兵器不拡散条約を有効化する努力を求めるとともに、日本政府に対しても核兵器禁止条約の締約と第1回締約国会議への参加を要請しました[1]。

すなわち、平和宣言では以下のように指摘されています。

核軍縮議論の停滞により、核兵器を巡る世界情勢が混迷の様相を呈する中で、各国の為政者に強く求めたいことがあります。それは、他国を脅すのではなく思いやり、長期的な友好関係を作り上げることが、自国の利益につながるという人類の経験を理解し、核により相手を威嚇し、自分を守る発想から、対話を通じた信頼関係をもとに安全を保障し合う発想へと転換するということです。そのためにも、被爆地を訪れ、被爆の実相を深く理解していただいた上で、核兵器不拡散条約に義務づけられた核軍縮を誠実に履行するとともに、核兵器禁止条約を有効に機能させるための議論に加わっていただきたい。
日本政府には、被爆者の思いを誠実に受け止めて、一刻も早く核兵器禁止条約の締約国となるとともに、これから開催される第1回締約国会議に参加し、各国の信頼回復と核兵器に頼らない安全保障への道筋を描ける環境を生み出すなど、核保有国と非核保有国の橋渡し役をしっかりと果たしていただきたい。また、平均年齢が84歳近くとなった被爆者を始め、心身に悪影響を及ぼす放射線により、生活面で様々な苦しみを抱える多くの人々の苦悩に寄り添い、黒い雨体験者を早急に救済するとともに、被爆者支援策の更なる充実を強く求めます。

こうした要請は核兵器の持つ抑止力が有効であると考えられている限りにおいては現実味に欠けるものかもしれませんし、いわゆる米国の核の傘の下にある日本政府にとってもにわかには受け入れがたいものと言えるでしょう。

しかし、政治が一面において権力を巡る争いであり、他面において人々の幸福と安寧という理想の実現を追求する不断の努力であるとすれば、例年と同様に今回の平和宣言でも繰り返し強調された核廃絶の要望は、まさに政治のあるべき姿の一つの表れとなります。

そして、こうした理想を追求する要望が不断に提起されることは被爆地である広島市の使命でもあります。

それだけに、今年も、広島市は果たすべき責務を適切に遂行したと言えるのです。

[1]平和宣言【令和3年(2021年)】. 広島市, 2021年8月6日, https://www.city.hiroshima.lg.jp/site/atomicbomb-peace/179784.html (2021年8月7日閲覧).

<Executive Summary>
What Is a Meaning of the Peace Declaration by the City of Hiroshima at the Hiroshima Peace Memorial Ceremony of 2021? (Yusuke Suzumura)

The 6th August 2021 was the 76th anniversary of the atomic bombing of Hiroshima and Mr. Kazumi Matsui, the Mayor of the City of Hiroshima, declared the Peace Declaration. In this time we examine a meaning of the declaration.

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