「プロオーケストラへの支援はなぜ必要か」という問いに対する一つの答え

2月に始まった、新型コロナウイルス感染症の拡大防止を目的とした全国の職業楽団の公演の延期や中止は、各団体の経営を圧迫しています。

実際、2月以降公演を開催できないために年間の収入の1割相当を失った楽団[1]や、自助努力だけでは解決できない程度にまで財政問題が悪化している楽団[2]などがあり、現在、多くの団体が既存の寄附制度や賛助会員制度以外に、小口での寄附や募金を受け付ける取り組みを行っています。

こうした状況を受け、私も3月26日(木)以降、各団体の呼びかけに応じてささやかながら寄附を行っています。

私が全国の職業楽団の呼びかけに応じる理由は、主に2つあります。

すなわち、第1の理由は私自身が多年にわたって交響管弦楽の分野に親しんでいることであり、第2の理由は日本の交響管弦楽の歴史にあります。

第1の理由については、聴衆あるいは演奏者として交響管弦楽の分野に関わってきたことを考えれば、職業団体の窮状に何らかの支援をすることは、功利的にも心情的にも決して不思議ではないと言えることでしょう。

また、過去の事例に鑑みれば、日本を代表する楽団であるNHK交響楽団も前身の新交響楽団以来様々な経緯を辿ってきたように、財政問題が団の命運を左右してきたことが分かります。

例えば、1964年にTBSとの専属契約を打ち切られて財政が破綻し、楽団長であった橋本鑒三郎氏が自ら命を絶った東京交響楽団や、1972年にフジテレビと文化放送から専属契約を解消され、財団法人が解散したことで新日本フィルハーモニー交響楽団と分裂した日本フィルハーモニー交響楽団、さらに、2001年、財政的に苦境にあった新星日本交響楽団が東京フィルハーモニー交響楽団と合併するなど、思いつくだけでも苦難の道のりを歩んだ職業楽団は少なくありません。

今回の「新型コロナウイルス問題」によって経営が破綻する楽団が生じることは、日本の交響管弦楽界にとって損失となるだけでなく、楽団員や関係者の雇用問題、さらにはわが国の音楽文化の発展を妨げることになりかねません。

もとより、私一人の力はごく小さなものですし、職業楽団以外にも支援を必要とする機関や組織は多数あります。

従って、交響管弦楽の分野だけでなく、演劇や絵画、舞踊など、各人がそれぞれ興味や関心を持つ分野などを中心に、わずかずつではあっても支援をすることが、産業としての文化の振興に繋がることになるでしょう。

以上は、「プロオーケストラへの支援が何故必要か」という問いに対する、私なりの答えの一つであります。

[1]札響の損失 最大1億円 千円から寄付募る. 北海道新聞, 2020年4月16日, https://www.hokkaido-np.co.jp/article/412759 (2020年4月18日閲覧).
[2]ご支援のお願い. 九州交響楽団, 2020年4月17日, http://www.kyukyo.or.jp/support/ (2020年4月18日閲覧).

<Executive Summary>
What Is a Meaning for Us to Support the Professional Orchestras under the COVID-19 Pandemic? (Yusuke Suzumura)

Under the situation of the COVID-19, many professional orchestras in Japan require us to support them. On this occasion we examine a meaning for us to support such organisations.

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