FOXスポーツが儲けの少ないWBCを中継した理由

去る3月27日(月)、日刊ゲンダイの2023年3月28日号27面に連載「メジャーリーグ通信」の第135回「FOXスポーツが儲けの少ないWBCを中継した理由」が掲載されました[1]。

今回は、米国においてワールド・ベースボール・クラシックに中継をFOXスポーツが担当した理由を検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


FOXスポーツが儲けの少ないWBCを中継した理由
鈴村裕輔

9回裏に大谷翔平が登板して2アウトを取り、マイク・トラウトを3ボール2ストライクから空振りの三振として試合は終了し、日本代表が3対2で米国代表に勝利して優勝する。

どれほど優れた作家や脚本家でも書けないような展開で幕を下ろした今回のWBCは、人々の記憶に残る大会となった。

チェコや英国などが本選に出場したことは野球の普及を考える上で重要な成果だった。

興行面では大会関連商品のオンライン販売の売り上げが2017年の大会の1.5倍となったことが注目される。また、日本国内のテレビ視聴率の高さも、各国・地域の中で際立っていた。

イタリアとの準々決勝での48.7%をはじめ、1次ラウンドの日本対韓国戦(44.4%)、準決勝の日本対メキシコ戦(42.5%)と、WBCの歴代最高視聴率上位4試合のうち3試合が今大会で記録されたことは、視聴者の注目度の高さを示している。

決勝戦も平日の午前8時の開始という悪条件ながら、世帯視聴率は42.4%と仕事中に中継を見ることを許す企業があるなど大いに注目を集めた。

一方、かつて「視聴率は0%台」などといわれ、人々の関心のなさに関心が集まった米国の様子はどうだろうか。

米国では、日本との決勝戦が過去最高の視聴者数を記録した。

この試合は、米国4大ネットワークの一つFOX傘下のスポーツ専門チャンネルFS1、スペイン語チャンネルFOXデポルテス、そしてFOXスポーツのストリーミング配信で中継され、合計平均視聴者数は約520万人だった。

しかし、地上波で放送された日本の状況を考えれば、スポーツ専門局のみの中継となった米国では、依然としてWBCを取り巻く環境が厳しいことを窺わせる。

しかも、日米両国とも今大会で視聴者数の記録を更新したとはいえ、その内容には開きがある。日本の新記録となった対韓国戦の視聴者数が約6234万人であったのに対し、米国の約520万人という数値は、日本の約8.3%に留まっているのだ。

確かに、米国が優勝した前回大会の視聴者数を約69%上回るなど、大会の知名度は徐々に浸透している。

それでも、ワールド・シリーズやオールスター戦に比べればWBCは広告収入の点で見劣りすることは否めない。

それだけに、昨年FOXスポーツが米国内での独占放映権を獲得した際、「われわれが野球と長年にわたって関わって来た経緯に沿った動きである」という同社社長のマーク・シルバーマン発言したことは興味深い。

FOXスポーツは大リーグ機構と2022年から2028年までの放映権契約を締結している。

スポーツ専門局に欠かせない大リーグの試合という素材を得る代わりに、儲けの少ないWBCの中継を引き受けた形となったのである。


[1]鈴村裕輔, FOXスポーツが儲けの少ないWBCを中継した理由. 日刊ゲンダイ, 2023年3月28日号27面.

<Executive Summary>
FOX Sports Deals with the MLB to Broadcast the WBC (Yusuke Suzumura)

My article titled "FOX Sports Deals with the MLB to Broadcast the WBC" was run at The Nikkan Gendai on 27th March 2023. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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