「ふるさと納税訴訟での泉佐野市の逆転勝訴」が示唆する「を巡る素朴な性善説」の限界

本日、最高裁判所第3小法廷において、いわゆる「ふるさと納税制度」の対象自治体から除外したのは違法だとして、大阪府泉佐野市が除外決定の取り消しを求めた訴訟の上告審判決が下り、国の勝訴とした大阪高裁の判決を破棄し泉佐野市の逆転勝訴が確定しました[1]。

判決理由において、「新制度の施行前は、返礼品の提供で特に法令上の規制は存在しなかった」とした上で「新制度は一定の対象期間の寄付金募集実績に関するもので、施行前の過去の実績をもって(泉佐野市を)不適格とすることを予定していると解するのは困難」とするとともに、新制度に関する国会審議についても「過去の実績を基に不適格にできる前提で審議されたとはいえない」と判断しました[1]。

「ふるさと納税」が自治体間の超過利潤の獲得競争を引き起こし、制度の非効率化を予測することが容易であること、さらに少なからぬ納税者と自治体の担当者は経済合理性に基づいて利己的に行動しており、結果的に過剰な返礼という事態を生み出していることは、既に本欄の指摘するところです[2]。

すなわち、返礼品の代金が納税者からの寄附金の額を超えない限り、ふるさと納税を受ける自治体の税収は増えることになり、もし自治体甲が、地域の住民が自治体乙にふるさと納税を行うことを避けるためにより高額の返礼品を用意し、自治体乙が他地域からのふるさと納税を促進するためにさらに高額の返礼品を設定するなら、返礼品の金額を高額化させる競争が起きざるを得ません[2]。

また、理論的には税収を1円確保できる金額まで返礼品が高額化される余地はあるものの、例えば10万円の寄附に対して9万9999円の返礼品を用意するなら、1円の税金を集めるために9万9999円を費やしていることになり、非効率度が極限まで高められることになります[2]。

もちろん、総務省の掲げる、以下のような「ふるさと納税」の理念[3]は、制度を正当化するために不可欠なものです。

第一に、納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度であること。それは、税に対する意識が高まり、納税の大切さを自分ごととしてとらえる貴重な機会になります。
第二に、生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる制度であること。それは、人を育て、自然を守る、地方の環境を育む支援になります。
第三に、自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進むこと。それは、選んでもらうに相応しい、地域のあり方をあらためて考えるきっかけへとつながります。


しかし、実際には納税者も自治体の担当者も趣旨を理解して「ふるさと納税」制度を活用するだろうという性善説に基づく政策から泉佐野市のように「自治体間の競争」に勝ち抜くことを最も重視した自治体が現れたという点は重要です。

何故なら、「ふるさと納税」が基づく素朴な性善説は、人間の利己主義に基づく行動の後塵を拝したからです。

それだけに、今回の判決は、総務省の遅きに失した対応[2]がもたらした、ある意味で当然の帰結であったと言えるでしょう。

[1]ふるさと納税訴訟、泉佐野市が逆転勝訴 最高裁判決. 日本経済新聞, 2020年6月30日, https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60958330Q0A630C2CC1000/ (2020年6月30日閲覧).
[2]鈴村裕輔, 「ふるさと納税の抜本見直し」が示す「素朴な性善説」に基づく政策立案の限界. 2019年12月14日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/f5112f60692ba77be81f6f455586ad12?frame_id=435622 (2020年6月30日閲覧).
[3]ふるさと納税の理念. 総務省, 公開日未詳, http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/policy/ (2020年6月30日閲覧).

<Executive Summary>
Loss of the Court Case on the Tax Deductible Donation System Demonstrates Importance of Hard Viewpoint for Human Nature (Yusuke Suzumura)

The Japanese Supreme Court made a judgement that the central government's decision to remove the City of Izumisano from a tax deduction scheme on 30th June 2020. It demonstrates importance of hard viewpoint for human nature when the authorities plan a policy, since the winner performs according a rent-seeking.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?