【追悼文】アントニオ猪木さんについて思い出すいくつかのこと

本日、元プロレスラーで参議院議員だったアントニオ猪木こと猪木寛至さんが逝去しました。享年79歳でした。

猪木さんがプロレス界を牽引するとともに独特の存在感や語彙、あるいは表現によってプロレスに興味や関心のない人たちにも広く知られたこと、またスポーツ平和党から出馬して参議院に初当選し、1990年の湾岸危機の際にイラクを訪問して日本人の人質の解放に尽力したり、独自の繋がりのある北朝鮮を訪問して親善活動などに取り組んだことは周知の通りです。

プロレスに関する知見に乏しい私にとってその名前は大変親しみがあり、政界での活動も小政党ゆえに制限されつつ、既存の政党では行えない取り組みを積極的に行ったことは、知名度と行動力の高さを有効に生かした事例の一つと感じられたものでした。

ところで、猪木さんというと思い出されるのが私が法政大学文学部哲学科の3年生であった1998年4月のことでした。

私が所属していた演習ではハイデガーの『存在と時間』を講読していました。

『存在と時間』の手掛かりとなる概念の一つは現存在(Dasein)です。そして、この"Dasein"に関連して、プロレスが好きな4年生の先輩が演習中に「猪木の『1、2、3、ダー!』の『ダー!』は"Dasein"の"da"で、猪木は闘うことを通して自らの存在を今ここにあらしめる、実存的なプロレスラーなんだ」と強調していました。

もとより猪木さんとハイデガーとの間に直接の関わりはなく、従って"Dasein"の概念とも無関係ながら、そのような視点からも「燃える闘魂」の活動を分析できるという点に猪木さんの魅力の一端が存するのかと、興味深く耳を傾けたものです。

プロレスがテレビの地上波で放送される機会がなくなって久しく、また、プロレス界そのものも往時に比べて一般的な認知度が低下しているようにも見受けられます。

その様な中で斯界屈指の存在感を誇った猪木さんが長逝したことは、プロレス界の一つの大きな時代の終わりを感じさせます。

アントニオ猪木さんのご冥福をお祈り申し上げます。

<Executive Summary>
Miscellaneous Memories of Mr. Antonio Inoki (Yusuke Suzumura)

Mr. Antonio Inoki, a former pro wrestler and member of the House of Councilors, had passed away at the age of 79 on 1st October 2022. In this occasion I remember miscellaneous memories of Mr. Inoki.

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